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一行じゃないけど物語を書いていくスレ
- 1 :海老天 ★ :07/11/04 00:39:44 ID:???
- 要望板>>6によりスレ立てします。
このスレはリレー小説を書くスレです。
・誰でも参加できます。
・本文に入る前に前のレスナンバー「>>前のレスavを入れて下さい。
(ダブりによるストーリーの混乱避け。重なってしまった場合は先に投稿されたものを優先して続ける)
・できれば連投は避けて下さい。
・世界観を大切に。
>>2の人がスタートさせて下さい。
- 2 :名無しさん :07/11/04 00:48:31 ID:kgoFeaqy
- 雨も滴るいい男とは、このことか?
俺にしちゃ、これほど不愉快なことなんてありゃしないんだが。
服に幾度ともなく水滴が流れ込んでくるわけで、このまま放置したら風邪ひくかなーとか思う。
俺の前を幾度ともなく人が通り過ぎていく。
誰も彼も、雨の中でポツンと立っている男を無視して通り過ぎていく。
この世界では喪服のような黒服が通常服である。
俺も黒スーツ、黒ネクタイをしめている。
そして、背後より慌てて傘を持ってきたこの男も。
「ゴルァ…おっせぇぞ、モララー」
「ご、ごめんだからな。こっちもいろいろと大変だったんだ」
「………。
………あの冷酷白肌×××モナー野郎にどっさり『仕事』を貰ってたのか」
「ギコッ! 上司の悪口はいけないんだからな!」
- 3 :名無しさん :07/11/04 08:03:41 ID:FuUzTf4w
- >>2
「あんな奴は、悪口の一つや二つ言われたって仕方ねぇんだよ」
雨が当たらなくなった。
俺の頭上でモララーが傘を広げてくれたのだ。
「ギコがどう思うが、駄目なものは駄目。
彼と上層の人達のおかげで、僕達が首の皮を繋いでるのは事実。
少なくとも、放送禁止用語はやめなよ」
「×××に×××と言って何が悪いんだか。
お前も×××××らに肩を貸すのかよ……」
モララーは溜め息をつく。
「こんな会話を交してる時点で、僕達はよっぽどオカシイよ。
……頭の螺が緩んでしまったのかな」
「俺はそう思わねぇけど?
何世紀前の人間は ――― 喜怒哀楽……感情ってヤツを、当たり前に表現できたって話だぜ?
何世紀前の人間から見れば……
根の部分から、こんな白黒の世界はオカシイのさ」
- 4 :名無しさん :07/11/04 10:32:45 ID:82NuhS9B
- >3の続き。
これは現代より一、二世紀先の話。
そしてその間に人々から感情が失われた。
しかしそれは徐々にではない、ある時ある事件を切っ掛けに一瞬でだった。
その事件こそが…戦争。
酷い戦争だった。
科学の進歩も助長して敗戦国は大陸ごと地図から消えた。
だが本当に恐ろしいのはそれからだった。
この世界から心、感情…それらのものが消えた。
彼らの国は直接の交戦は無かったが、それは例外ではなかった。
そして今でも失われたそれは戻っていない。
「俺だけなのかな、感情があるのって」
そんなことを呟くとモララーが「俺もだろ」と言わんばかりにこっちを見てきた。
けど正直モララーのことも完全に信用している訳じゃない。
「ごめん…」
けど一応謝っておいた。
正直アンカーを付けるのは被った時だけでいい気が…。
- 5 :名無しさん :07/11/04 15:05:41 ID:IsR6jy6A
- 「あー、謝らなくていいからな。変なこと言ったのはこっちだし」
そういったモララーの目が、大通りにうつる。
傘をさして歩く、大勢の人、人、人。
その顔には『感情』は全く見られない。
傘の色も、黒いこうもり傘か透明なビニール傘のどちらかである。
「まるでロボットか何かだぜ」
そうはき捨てる。
喪服のような真っ黒いスーツがずぶ濡れになるのも、気にもならない。
「そりゃあ感情がないのは便利かもしれねえさ。下らない口論も、大声でみっともなく
泣くのも、何もかもしなくていい」
「でもよ……誰かに何かをしてもらって嬉しかったり、喜んだり、笑ったり……
そんな事、感情がなきゃ出来ないじゃないか」
- 6 :名無しさん :07/11/04 19:07:39 ID:kgoFeaqy
- >>5
「……」
「そうは思うけど。
この世界じゃ、邪魔なものとしか映らないからな…」
若干悲痛が篭った俺の声を聞いて、モララーも寂しそうに目を伏せた。
しばらく二人の間を沈黙が流れた後、腕を引かれる感じがした。
勿論引っ張ったのはモララーで、彼は無表情で告げる。
「早く行こう。次の『仕事』があるんだからな」
「……今日の仕事は終わりじゃなかったのかゴルァ!?」
「モナー上司直々の命令。『護衛』だよ、『護衛』。
上が大切にしていらっしゃる――― オ ヒ メ サ マ のね」
「……使用人に平気で、虐殺厨とか言う女に仕えなきゃいけねぇのかよ…。
まったく何もかも狂ってやがるぜ」
- 7 :名無しさん :07/11/05 09:31:52 ID:llZ0ZhPc
- 彼女の甲高い声を思い出して、俺は一気に不機嫌になる。
彼女の名はシィナ・アフォール。通称しぃ。
この国の頂点に立つ『王』と『王妃』の一人娘。
そして、この国では珍しくなってしまった……俺やモララーと同じように、感情を持つAA。
それだけ言えば聞こえはいいが。
正直、あの女は『最悪』の一言に尽きる。
感情を失う前の王と王妃の、過保護で甘やかした教育のおかげで、彼女はすっかり
わがまま放題のクソガキへと育ってしまった。
姫である自分の権力を鼻にかけた、電波全開の自分中心的な思想。
自分が不利になると、すぐ過保護教育の筆頭だった母……王妃にべったり甘える生意気さ。
それでも、会見とか公の場では、感情を捨てた『姫』の顔を演じる猫かぶり。
……ついでに、極度の甘党で偏食。野菜も肉も魚も、濃く甘く味付けしたものしか食べない。
当然デザートがなきゃ怒る。
でも、どういうわけか太らないんだよな。
……考えただけでイライラする。
彼女の甲高い声は、どうも神経を逆なでする効果があるようで。
- 8 :名無しさん :07/11/05 19:14:12 ID:0ihBZ0Ac
- 深いため息をつく俺。
現在、あの女に関しての良い思い出はない。
あの女の良いところ……あったっけか?
ああ、一つだけあった。
あの豊満な胸は大したものだ、栄養分は全て胸にいってるに違いない。
……何考えてんだよ、俺。
傍から見りゃ、ただのドスケベじゃねぇか……
- 9 :名無しさん :07/11/06 13:43:56 ID:VcJpB2ZC
- そう自分に悪態をつく。我ながら馬鹿馬鹿しいこと考えちまったなあ。
ああそれと。
あいつは何故か、俺があいつの所に行くと何故か異常なほど喜ぶ。
抱っこして! なんて甘えてくるだけならまだいいが、俺の身体に無理やり
抱きついてくる。重いし、邪魔だし、いい迷惑だ。
そして反対に、何故かモララーの事は毛嫌いしてるみたいだ。
あいつはモララーに説教されると逆ギレする。しまいには『お父様やお母様に
言いつけるわよ!』だ。
大人気ない奴だな。王と王妃の親バカっぷりにはほとほと呆れる。
……まあ、王妃の感情が消えちまったおかげで、必殺『お父様やお母様に
言いつけるわよ!』攻撃も、最近は効果が薄れてきた。
いい気味だぜ。あの調子であの傍若無人な性格も直ってくれりゃあいいのに。
「……ギコ。さっきから百面相。何考えてるかばればれだよ」
「え。マジ?」
笑いをこらえながらモララーにそう言われて、はっと我に帰った。
「良いから行くよ。時間がないんだからな」
「……おう。で、どこまであの女を護衛するんだ?」
「さあね。それは本人に聞こうよ」
「けっ。面倒くせぇ」
そう会話を交わしながら、俺達は歩き出す。
多分この世界で唯一、最も安全な場所。
真っ黒に染まったこの街の中でもひときわ目立つ、機械仕掛けの城。
そこへ、俺達は向かう。
- 10 :名無しさん :07/11/06 17:46:39 ID:riykqxwp
- 城の奥深くにある部屋。
その部屋の中で、漆黒のドレスを着た女性が自分のベットにだらしなく横たわっていた。
漆黒のドレスにはスリットがあり、そこから左足が顕わとなっており、王家の紋章である【不死鳥】が刻まれている。
彼女こそがこの国の姫 ――― シィナ・アフォールである。
「シィナ様」
数回のノックがあった後、この城に仕える使用人が入ってきた。
いつもはノックがあった場合でも怒鳴る彼女であるが、今回はそれはなしで静かに上半身を起こす。
無言のまま、使用人にその先の言葉を促す。
「まもなく、貴方様を護衛する二名が到着いたします」
シィナはクスリと微笑んだ。
「そう……準備はもう出来ているわね?」
「はい。モララー様は素直に応じてくださるでしょうが、ギコ様は必ず抵抗するはず。
屈強の兵士達を百人ほど用意させていただきました。使用人も総出で迎えます。
例え、私達が朽ちようとも必ずやり遂げてみせます」
若干、物騒な話である。
……シィナが何かを企んでいるのは明確であった。
- 11 :名無しさん :07/11/06 17:47:03 ID:riykqxwp
- 「クスクス、結構。それじゃあ、確認ね?
モララーは服のどっかに刻めばいいとして、
ギ コ の 【 不 死 鳥 】 を 刻 む 箇 所 を答えなさい」
命じられた使用人は命じられたままに、この日まで何回も詠唱した言葉を告げる。
「左足の脹脛に刻まれたシィナ様の不死鳥の刻印と…
対 称 に な る よ う 、 右 足 の 脹 脛 に 刻 む。
刻印が見えるように、新しいギコ様の黒スーツも用意させております」
- 12 :名無しさん :07/11/06 23:28:45 ID:Ioz7AXu2
- 白と黒しかない色彩の中、
彼女の左足に刻まれた【不死鳥】の刻印だけは、紅の色を帯びていた。
- 13 :名無しさん :07/11/07 21:05:13 ID:tleC7Bk8
- 「分かってるんならいいわ。とっとと『ギコ君』と『クソモララー』を迎えに行きなさい。
それから、誰でも良いから呼んで来て」
「かしこまりました」
うやうやしく礼をし、使用人の男はそそくさと部屋を立ち去る。
「……2人とも、嫌とは言わせないわよ」
妖しく、彼女は笑う。
「何てったって、この私の命令だもの」
ベッドを立ち、軽くドレスの裾のしわを直しながら、彼女は呟く。
自らの、野望を。
「私とあなたたちが、この世界を変えるのだから……」
すると、小さくノックの音が聞こえた。
「お入り!」
シィナの怒声に近い声に促され、先程の人物とは違う使用人が入ってきた。
「シィナ様、お呼びでしょうか」
「私を謁見の間に送りなさい。お父様もお母様も、もう着いてるんでしょう?」
「はい」
「なら、行くわよ!」
スリットが入ったドレスを大きく翻して、彼女はずかずかと歩き出す。
そのしぐさに、王族としての気品は全く見られない。
しかし、感情を持たない使用人は、とやかく言わずに黙ってシィナの後ろについて歩いた。
「……あの2人……どういう反応するかしら。ちょっと楽しみだわ」
- 14 :名無しさん :07/11/07 22:24:24 ID:m6Y5Ie57
- 「「「ようこそ、いらっしゃいました」」」
「すっげぇ……」 「壮観、だね」
重々しい扉が開かれ、目に飛び込んできた光景に、一字一句揃った歓迎の言葉に、
思わず、俺とモララーは感嘆の声を上げた。
城に到着し、一人の使用人に王と王后、そしてアフォ姫がいる謁見の間に案内されるのがいつもの流れだった。
が、今回は兵士が使用人が……おそらく、総出で出迎えだ。
エントランスのみでも馬鹿でかい面積なのだが、上空に伸びる螺旋階段も含め、この城に仕える人々で埋めつくされている。
言っとくが、俺もモララーも王子じゃねぇぞ?
ただの、一般市民だ。
育ちはともかく、高貴な血筋やらには無縁の身。
正直、こんな待遇には面食らう。
「いったい、何だってんだぁ?」
「さぁ………?
あれ、あの使用人……前、僕達を案内してくれた人だよね」
「ん、手に何か持ってるぜ?
紅い模様が描かれた黒服……か?
どうやら、お前に渡そうと思っているらしいぞゴルァ」
- 15 :名無しさん :07/11/08 20:16:09 ID:yv5T7f88
- 「ギコ様、モララー様。シィナ様からの贈り物で御座います」
俺達の考えを見透かしたみたいに、服を持った使用人が俺達の前に立って言った。
「しぃが俺達にぃ!? あの強欲女がどういう風の吹き回しだよ」
「……うん。僕も正直驚いてる」
「客室をお貸しいたします。お召しかえ下さい」
俺達のひそひそ話にシカトを決め込み、機械みたいな淡白な口調で言う使用人。
棒立ちで黙るモララーを尻目に、何気なく俺は差し出された服を持って
広げてみる。
……
「……ぶっ。ギコ、それ……」
「うっせぇ黙れ! ……なんだよこのデザイン」
俺の服を見て噴出したモララーに突っ込みを入れて、俺はまた広げた服を見た。
ちょうど、俺が広げたのは黒服のズボンだったんだが……
ズボンの右の裾の方だけに、深いスリットが入っている。
「これを俺に着ろっつーのかよ。あんのアフォ姫……」
服をくれるって聞いたとき、実は良い奴なんじゃないかってほんの少し思ったが、やっぱ前言撤回。
やっぱりあいつは『最悪』としか言いようがない。
俺はつくづくそう思い知る。
- 16 :名無しさん :07/11/08 22:07:12 ID:I2aMlnWF
- 「それだけではありません」
一人の兵士が服を渡した使用人の隣に躍り出た。
その直後に、俺の横で己の服を捲っていたモララーはある指摘をする。
「……僕の服には紅い刺繍が施されてるけど、ギコのにはないよね?」
「へ?ああ」
モララーは眉を寄せる。
「それに加え、右のスリット……あ」
何かに気付いたらしいモララーは、大袈裟にそっぽを向いた。
う、口笛を吹いている仕草! 滅茶苦茶怪しいぞォ!?
「モララー様……では、こちらに」
使用人がモララーを客室に誘導しようとしている。
モララー、命拾いしたって顔に出てるぞ!?
誘導される直前、モララーは俺の肩に手を起き、
「スタンガンのレベル、上げちゃ駄目だからな!!
××××××とか、×××××しようとか絶対駄目だからな!!」
放送禁止用語って訳でもないが……立場上ヤバげな言葉を口に出してしまうくらいの、
乾いた笑顔を浮かべた。
………俺に発言の間も与えず、その場から去るモララー。
へ?グッドラック?
ハハハハハと棒読みに近い彼の言葉が遠くなっていく…………
あのぉ、一人取り残された俺は凄い嫌な感触を味わっているのですが。
何されるの、俺?
ヘヘへ、見間違いッスよね?
使用人が兵士が俺を取り捕まえようなんて、ねぇ?
- 17 :名無しさん :07/11/08 23:22:16 ID:fk56PrJ9
- 「私達の無礼をどうかお許しください。
…シィナ様の、絶対的な命令なのです」
- 18 :名無しさん :07/11/09 14:27:28 ID:BgIoz7do
- 「あ」
謁見の間に移動する途中、シィナは突如声を上げ立ち止まった。
自分の足の【不死鳥】の刻印に触れる。
全体に広がる紅。
「よく考えてみれば、ふくらはぎだけじゃなくて
……足全体なのよねぇ」
姫らしからぬ下品な笑い。
背後にいた使用人にすぐさま告げる。
「変更よ。
足 全 体 に なさ い 」
- 19 :名無しさん :07/11/09 20:28:48 ID:Fl9M1+nr
- 「あいつの命令? ふざけんなゴルァ! 何がおかしくてこんなセンスおかしい服
着なきゃいけねぇんだ……むぐ!」
怒鳴ろうとした俺の口を、何かが思い切りふさいだ。
それと同時に、俺の後ろに立っていた使用人が、俺の身体を羽交い絞めにする。
「……貴方が抵抗した場合による、シィナ様よりのご命令です」
「ご命令ご命令、って……う……」
叫びながら、俺の身体を羽交い絞めしてる使用人を振り払おうとした途端。
突然、俺の視界がぐらりと揺らいだ。
息が出来ない。
嫌なにおいがする。
気が、遠くなっていく。
(……睡眠薬!?)
どこまでも悪趣味なオヒメサマだ。こんなの冗談じゃない。
逃げようとするが、身体が全く動かない。
猛烈な眠気が襲ってくる。
「どうか、お許しを。ギコ・ハニャー……」
意識が、闇へと堕ちて行く。
使用人の台詞の最後の方は、聞き取れなかった。
- 20 :名無しさん :07/11/10 23:19:11 ID:TxiXp4U5
- 気付けば暗闇の中だった。
俺は理解する。
これは俺の『夢』の中だ。寝た時に見る『夢』。
薬をかがされた俺は、まんまと眠りについちまった。
………無茶苦茶だぜ!あの野郎、何考えてやがる…!
悪態をつき、起きたらどう仕返しをしようか考えようとした時、
………怒りの矛先を当てるべき相手が俺の前に現れやがった。
漆黒のドレス。 スリットの合間から見える左足に刻まれた【不死鳥】の刻印。
そして、唯一良いところだと認めた豊満な胸。
――― シィナ・アフォール。
目の前に現れたのがあのアフォ姫だと理解した途端、俺は胸ぐらを掴んだ。
夢だろうが何だろうが……説教せずにはいられねぇ。
「シィナ……俺に睡眠薬とはどういうこったァ?
てめぇに付き合って、ロクなことなんてねぇ!!」
………………。
…………………?
いつものパターンならば、シィナは泣くはずだ。
年相応ではない、「びえ〜ん」という幼稚な嘘泣き。
ところがどうだ? 彼女はきょとんとするばかり………シィナじゃ、ない?
「おぬしが何者かは知らぬが……
いきなり、このような仕打ちは無礼ではないかの?」
- 21 :名無しさん :07/11/11 08:29:04 ID:A/uiIZo/
- シィナは、【シィナの顔をしたそいつ】は、
古風な口調でさらりとそう言った。涼しい顔だった。
俺は腹の心底から違和感を感じた。
この目の前の女が、シィナではない。それもあるが、まったく別のところで…何かが、違うような。
彼女は俺の顔を見て、クックックと笑う。
その笑いを見て確信した。そんな笑み、シィナは浮かべない。
コイツは明らかにシィナではない。
俺はとりあえず、胸倉から手を放す。
「お前、誰だ?俺の『夢』の中で何してやがる」
心の奥底で、自分の言った言葉に矛盾を感じながらも、俺は静かに言う。
これは夢なのだ。夢なのだから、何が現れようと自然なことである。
しかし、理性ではない本能が俺に伝えている。
コイツ ハ ソトカラ ハイッテキタ エタイ ノ シレナイ モノ 、 なのだと。
「お前は礼儀を知らぬ奴じゃな。まず、自分から名を名のるものじゃろう?
――― 妾に、おぬしの名を教えよ」
………。
心なしか、彼女のペースに巻き込まれているような気がする。
逆らえ、ない……
- 22 :名無しさん :07/11/11 20:57:13 ID:fqXtlVM5
- 「……ギコ。ギコ・ハニャーン」
「なるほど、良いじゃろう。しかしいきなり人の胸倉を掴むとは……お主は礼儀が
なっとらんのお」
嫌みったらしい笑顔を浮かべて、そいつは言う。
「知るかゴルァ! お前そっくりのアフォ姫が悪いんだよ!」
「騒々しいのう。お主はただ無神経に怒鳴るしか能が無いのかえ?」
「てっめぇ……」
ぎりぎりと歯軋りしながら、俺はそいつを睨みつける。こいつ、何でこんなに偉そうなんだ!?
って、こんな所で下らん痴話喧嘩してる場合じゃねぇ。とっととこの悪夢から出ないと!
「この『悪夢』から出して欲しい。そんなところじゃな」
「!?」
俺の考えを読んだみたいに、そいつは嫌みったらしい笑みを浮かべながら言った。
「どうして……」
「良いじゃろう、出して進ぜる。そして……妾の名、しかと聞くが良い」
俺の台詞を遮ってそう言い切り、そいつは俺の側に歩み寄った。
しぃのような下品な大股歩きじゃなく、静かに、上品に……ゆっくりと。
「我が名は『レイズ』。感情と再生を司りし『不死鳥』なり!」
そう、高らかにそいつが叫んだ瞬間。
辺りが、真っ赤な炎に満ちた。
「我が『翼』の片割れよ。この世に、再び感情の再生を……」
完全に意識が途切れる寸前。
あいつの……レイズの声が、聞こえた。
- 23 :名無しさん :07/11/11 22:20:34 ID:uZohUER+
- 「……コ君………ギコくーん」
「ぐぅ」
乱暴にネクタイを引っ張られる感触がする。
俺の全身に重石のように乗っている奴がいる。
………目を開けたくない。
こんなことする奴、俺の知り合いの中で一人しかいねぇ。
いつ聞いても、お前の甲高い声は癪に触るんだよ。
俺は目を開けるとすぐに、今度こそ叱るべき相手の胸ぐらをつかんだ。
右足に不自然な熱さを感じながら。
- 24 :名無しさん :07/11/13 21:17:32 ID:F3hO5UZV
- 「てっめえ……しぃ!!」
「いやん怒っちゃ嫌〜」
勢いよく起き上がって、アフォ姫の胸倉を掴み、この上なく不愉快だが……
顔に思い切り顔を近づけて、大声で怒鳴ってやる。
それに対して、そいつは身をくねらせながら例のぶりっ子全開の猫なで声で返す。
反省の色は全く無い。
というか、こいつが『反省』という言葉を知っているのかどうかも怪しい。
ああ、腹立たしい。
「黙れゴルァ!! テメーが変な手ぇ回すから俺はこんな目に逢ったんだろうが!」
- 25 :名無しさん :07/11/14 19:47:01 ID:yXy2CVqP
- 「こんな目って、どんな目ぇ〜?」
……コイツ、わかってて言ってやがるな。
追求するのも馬鹿馬鹿しくなってきた。
毎度毎度、こんなやりとりでは此方の身が持たない。
- 26 :名無しさん :07/11/18 07:38:59 ID:a4A+qzum
- これは罰だ。
今日はこれくらいで済ましてやる…ゴルァ!
「くらいなぁ!!」
バシーン!
「ひゃあ!いったーい!」
俺が指を弾いて出来た、姫の広いでこの赤い一点。
「ひっひっひっ、デコピンだぜぇ?
お前がどれだけちやほやされようがな?
俺はお前のこと、姫様だなんて認めねーからな」
- 27 :名無しさん :07/11/18 13:32:17 ID:DketEbeG
- 俺にニヤニヤされながらそういわれたしぃは、しばらくぽかーんと突っ立っていたが、やがて。
「……ひっどおーい! お父様とお母様に、ギコくんがいじめたーって言いつけて
やるんだからっ!」
そう、早口でぺらぺらとまくしたてる。
こいつの甲高い声は頭に響くから大嫌いだ。
聞いてるだけでイライラする。
「おーおー出来るもんならやってみろゴルァ! 言ったとしても今の陛下たちじゃあ
聞いてくれねぇのがオチ……痛ぇ!」
負けじと言い返してベッドから降りようとした時、俺の右足に鈍い痛みが走る。
思わず俺はうずくまる。
「ギコくーんだいじょーぶー? しぃちゃんが手厚い看病してあげるよ〜」
「いるかゴルァ!」
さっきまで頬膨らませてぎゃーぎゃーわめいてたくせに、これだ。調子の良い奴め。
そもそも自分のことをちゃん付けで呼ぶ辺り、激しくおかしい。
すると、俺に無理やり飛びついてきたしぃが、俺の右足を見るなり、言ったんだ。
「あっれー? ギコ君ってば、いつの間に「いめちぇん」したわけー?」
- 28 :名無しさん :07/11/18 23:55:33 ID:kfvFK6SC
- 「イメチェン?馬鹿言え。
やけに右足が熱かったり、スースーしたり、いったい全体何だって……」
目の前にポツンと置かれた鏡。
それに映る俺の姿。
………………………。
「ええええええええぇぇぇぇ!!??」
- 29 :名無しさん :07/11/19 20:29:15 ID:ARVx2Etk
- 思わず俺は叫んでいた。
だって、これが叫ばずにいられようか。
いつの間にか、あの深いスリットが入った服に着替えさせられていた俺の脚には。
何と、しぃと対になる右足に、しぃそっくりの『不死鳥』の刺青があったんだから!
それも一箇所だけにじゃなく、尻の付け根からつま先まで、足と呼べる場所全体に。
そっくりっつーか、あいつのは赤で俺は青だけどな。
まあ、この俺が気に入るわけがないがな。
「きゃーんギコ君かっこいー! しぃちゃんとペアルック似合ってる〜」
いきなり俺に頬擦りしながら、甲高い黄色い声で言うアフォ姫。冗談じゃない!
「ふざけんなゴルァ!! 何だって俺がこいつなんかと同じ刺青なんか……」
しぃを押しのけながら叫ぶしかない俺に。
またまた、不愉快な声が飛び込んできたんだ。
「知りたいモナ?」
- 30 :名無しさん :07/11/20 23:31:13 ID:t3jD44f2
- 扉の先にいたのは、『姿は』俺やモララーよりも二、三歳年上の男。
コイツも常時服の黒スーツを来ている訳だが、襟に緑のブローチを取り付けている。
単刀直入に言おう。
「何の用だ、××××上司。
今日はもう会いたくなかったんだがな」
「………ご挨拶モナね。
上司にそのような言葉を投げつけるとは……
どこをどう間違れば、そうなってしまうのか。
モララーは素直に育ったというのに、本当に不思議だよ」
「一度、自分の胸に手を当ててよく考えてみりゃあ良い。
……義父上様よォ」
俺達は【訳あり】だからこんな会話となる。
この男の名は、モナー。
一応は、俺とモララーの上司兼育ての親。
身体年齢こそあれだが、精神年齢、歩んできた人生の長さは俺達の二倍はいっている。
- 31 :名無しさん :07/11/22 00:39:50 ID:sME34+5O
- 「運命共同体だモナ」
そういってモナーは ふ と薄く笑った
──ような気がした。
あくまで「ような気がした」だ。なぜそう思ったかは判らない。
多分、錯覚だろう。
で、
『運命共同体』?何の話だ?
突然目の前のこのアフォの爆発女に城に呼びつけられて、
クロロフォルム嗅がされ昏倒させられ、
御本人の了承も無く勝手に人の体に取り返しの付かないアート施しやがって!
挙げ句の果てに『運命共同体』だ?
脳味噌沸いてんのか、ゴルァ……。
俺は粘っこくてどす黒いタール状の何かが身の内から沸き上がってくるのを感じた。
今すぐこの場で二人を張り倒したい気持ちと、その黒い感情を抑制する意思と、
訳知り顔のこいつらに色々問い詰めたい考えとが俺の中で鬩ぎ合っていた。
こちらの反応を楽しむかのように少し長目の間を置いてからモナーはゆっくりと口を開いた。
「今はそうとだけ説明しておくモナ」
俺は納得していないぞ、モナー。
洗いざらい吐いて……
「……夕食と寝室の用意をしておいた。今夜はここに泊まるといいモナ」
……狸がッ。
先手を打たれてしまった俺は場の空気に流されるように部屋を追い出された。
- 32 :名無しさん :07/11/23 01:09:52 ID:YG+qUhSP
- 居室には王女シィナとその従者にして傅育官であるモナーだけが残された。
部屋には先刻ギコが発した怒気が石炭を燃やした後の熱気の如く、
長く余韻を残して残留しているかのように思われた。
「ギコ君は……」
ぽつりと口を開いたのは姫。
従者は顔をそちらへ向けて次の言葉を待った。
「私のことを怨むでしょうね」
従者は主の更なる言葉を待つべく押し黙っている。
「非道い話だけど、こんな仕打ちは今回限りじゃない。これからも二人を酷い目に遭わせるわ。
許してもらえるなんて思わないし、とても思えない。でも……」
主君の告解はそこで途切れた。
今、従者の目の前にいる姫君の表情からは我が儘で愚昧な様子は覗えなかった。
むしろ品性と知性すら漂わせている。
ただ、公の場でそうしているような演技ではけしてなさそうであった。
従者はそっと歩み寄り姫の正面に傅いた。
彫刻家が石の癖を読みつつが刃を入れるかの如き慎重さで言葉を挟んだ。
「幾度と申し上げましたが貴女様のみの業ではございませぬ」
一呼吸置いて従者は鎚を一振りするようにもう一言挟んだ。
「私も共に背負う。あの時そう誓ったではございませぬか」
主は黙っている。今度は先程とは逆の立場だ。従者は更に続ける。
「二人には手順を踏みながら折を見て話をしていきたいと存じます」
従者は静かに立ち上がると部屋の後片付けを始めた。
ギコが横たわっていた寝台のシーツの皺を整える等のそれら一連の作業を
慣れた所作を以て数分で終わらせた。
「それではお休みなされませ」
従者は暇乞いをすると扉に近寄り把手に手をかけ退室した。
- 33 :名無しさん :07/11/23 09:18:59 ID:89s9+Yk1
- 「ギコ、まだ怒ってるの?」
「………今は怒りよりか、呆れてるぜ」
各自で夕食を終えた後、ギコは僕が使わせてもらっている部屋に入ってきた。
先程、見殺しにしてきたので「薄情」の一言でも飛んでくるかと思ったけれども、
僕の首に刻まれた、黄色い【不死鳥】が見えたのだろう……咎めはしない。
僕の衣服の右腕には黄色の【不死鳥】の刺繍が施されている。
僕としてはここでSTOPをかけてもらいたかった。
衣服なら未しも、体に刻まれたら。もう後戻りは出来ない気がしたから。
それをさせなかった上司、義父のモナー。
『私の身は【不死鳥】を刻むことを許してくれない。
私には許されぬ刻印を……息子達が体に刻むことは、何よりも嬉しい』
NOとは言えなかった。
………ここまで育てて下さった義父親に恩を返すというよりかは、もはや脅しだった。
ギコが羨ましいよ。何者に対しても自分の意思を言える。
自分の意思を言葉に紡げない僕はまた心に、決して心地好くないモノを蓄積させる。
「モララー、大丈夫か?」
「…………。
大丈夫、何でもないよ」
- 34 :名無しさん :07/11/23 11:56:38 ID:PGIlHF0s
- 「そうか? 俺には何でもなくないように見えるけどな」
「……!」
はっと僕は息をのむ。
やっぱりギコに嘘はつけない。
僕と同じように『感情』を持つ彼に、隠し事は出来はしない。
その瞳は、いつだって真実を映してるから。
……それは。
僕やギコ、それにしぃ姫を『育てた』あの人も、そうだけれど。
「……俺たち『4人』」
小さく、ギコが呟く。
彼の言葉を聞いているのは、僕と……
多分この世界で一番安全な場所だと思われる、機械仕掛けのこの城だけ。
「なんで、感情なんか持っちまってるんだろうなあ」
- 35 :名無しさん :07/11/23 18:47:54 ID:3AOykyRA
- たまに、
本当に感情というものが邪魔に感じる時がある。
感情が失われてしまったこの世界では、異の存在であるのはこちらなのだ。
- 36 :名無しさん :07/11/24 10:22:48 ID:GKMmukXq
- 「モナだって不思議モナよ」
自分の雪のように白い肌は、『不死鳥』を刻まれるのを拒む。
生まれながら、自分は『不死鳥』に嫌われている身。
今この部屋に、姫はいない。
彼女は先程、迎えの使用人と共に、夕食の為に両親が控える王室の者専用の
大広間に行ってしまった。
「何で、あんなこと言ったモナかねぇ……」
義理の息子の1人、モララーに。
さっき、自分は何と言った?
「……何よりも『嬉しい』……」
紛れもなく、正の感情。
そんなもの、捨てたはずじゃないか。
自分も、とうの昔に。
「どうして……モナは、あんな事を……」
答える者は、いない。
- 37 :名無しさん :07/11/24 14:22:21 ID:V/P2WPAs
- 仮面を貼り付けたように、──否、
拭き去ったか削り取ったかのように表情の無い男女が食卓を挟んで少女の目の前にいる。
二人は言葉を発することもなく、けして豪華とも言えないが粗食とも言えないが、
栄養のバランスだけはきっちりと計算し尽くされた料理を口に運んで咀嚼していた。
この人達にはもう『感情』は戻ってこないのだろうか?
少女は食事の手を止めて物思いに耽った。
二世紀前から一世紀前辺りにかけて長らく続いた大戦で多くの人々は
『感情』を失ったわけであるが、全ての人がそうというわけでもなく
ギコやモララーのような例外も本当に少数だが存在した。
少女の両親もその「例外」であった。
かつては。
その「例外」の大半も世界の大きな圧力に屈するかのように
大きな流れに押し流されるかのように『感情』を喪失、
或いは自ら捨て去っていった。
少女は両親が好きであった。
いつも付き従ってくれるモナーのことも同じように好きであった。
その三人は何があっても自分と心と時間を共有してくれたから。
今はモナーだけしかいない。
ギコとモララーも『感情』を持ってはいるけど──。
だめ。
入れ込みすぎちゃいけないし、二人にも自分の領域に踏み込ませるわけにはいかない。
互いに辛くなるのは目に見えている。
そして少女は思う。
こんな葛藤は自分だけで十分だ、と。
- 38 :名無しさん :07/11/24 20:00:38 ID:6QOm85bW
- 「シィナ。食が進んでないようだが、どうかしたのかい?」
「な……なんでもありませんわ、お父様」
食事の手を止めていた少女、シィナは父親の言葉で我へと帰る。
感情が消え去っている今、心配というものがある訳がなく、ただ形式上に告げる言葉と成り果ててしまった。
こんな食卓など楽しくない。早めに食事を済ませてしまおう。
食事を済ましたら、さっさと自分の部屋に戻ろう。
今日はなおさらそう思った。
目の前にあるスープの器にスプーンを運ばなくては。
スープの水面に自分の顔が映る。……なんて情けない顔をしているんだ。
駄目だよ、私。甘い考えを持つな!
「しっかりなさい、シィナ!しぃ!
あの二人を必要以上に巻き込んでは駄目、駄目なの!
辛いのは私だけで充分!
私の痛みを彼らにも与えるなんて、嫌……!」
「もう後戻りできない所まで来てることがわからぬのか、のう?
シィナ・アフォール ――― この愚か者め」
ほんの一瞬。瞬きする間もないその時。
スプーンではなくキセルを持ち、シィナと同じ容姿を持った者がその水面に映った。
いきなり言葉を捲くし立てた後、席から立ち上がり泣き崩れる彼女がその者の存在に気づいたのか。
その者の憤りに近い言葉が届いたのかは、定かではない。
- 39 :名無しさん :07/11/24 23:40:25 ID:cLNzN3QH
-
不条理な世の中よ、私は貴様が大嫌いだ。
- 40 :名無しが死んでも代わりはいるもの :07/11/25 14:49:10 ID:rJgR26kH
- 無意味な運命よ、私は貴様が大嫌いだ。
無慈悲な真実よ、私は貴様が大嫌いだ。
不可能な夢よ、私は貴様が大嫌いだ。
何も生まぬ絶望よ、私は貴様を滅ぼそう。
その手に夢を抱き、その手に破滅を抱くがいい。
その手に愛を抱き、その手に哀を抱くがいい。
その手に命を抱き、その手に死を抱くがいい。
その手に希望を抱き、その手に絶望を抱くがいい。
- 41 :名無しさん :07/11/25 15:31:51 ID:obHkc2zu
- >>38
しばらくの間、シィナは椅子の傍らにうずくまっていた。
精神的な繋がりを失くし、血縁上と法律の概念による親子関係でしかなくなった
目の前の男女は不思議そうな目でシィナを見つめている。
やがてシィナは意を決したようにゆらりと立ち上がり椅子に腰を下ろした。
自分専用に濃いめに味付けされた料理が目前に有る。
父と母に供されている料理には申し訳程度の薄い味付けしかついてないが、
彼らはそれを美味しいだとか不味いだとか思うことなく、
ただ甘いだの辛いだの酸っぱい、しょっぱいとしか感じないだろう。
五感の中の一つとして味覚が備わっているだけで、
それに対して評価を下すセンスや感動する神経なんて今や持ち合わせてないのである。
必要以下でもない、以上でもない、過不足のない栄養さえ摂取できればいい。
濃い味付けだの薄い味付けだのそのようなものは無意味なのだ。
これは抵抗、私なりの。
世界がその存在を無駄と断じて淘汰したものを自分が、
いや、自分たちが甦らせてみせる。
そしてお父様とお母様を元に戻してみせる。
翌朝、シィナは食卓でモナーと共にギコとモララーを迎えた。
その目にはいつも通りの愚妹で我が儘な暗君の光を宿らせて、
その表情におよそ他者から疎まれる要素を全て詰め込んだような醜いニュアンスを忍ばせて。
顔を合わせた途端にギコの纏う雰囲気が冷たい波長のものに変わる。
モララーの眼光が鉛色に濁る。
鉄の杭による一撃を受けたかのような痛みがじわりと胸に拡がっていく。
怖ろしい獣が自分の心臓を鷲掴みにし爪を食い込ませ、
少しずつ力を籠めて締め付けているかのような気がした。
シィナは自らの内に持ち合わせた醜さを結集させて拵えた仮面でそれを覆い隠した。
「──おはよう、『ギコ君』。それから『クソモララー』」
- 42 :名無しさん :07/11/25 17:00:14 ID:aUVNGkmK
-
「――― お前なぁ。
使用人になんつー味を要求してんだ。
味見する方の身も考えてみろっつーの」
「だってー、私濃い味付けが好きなんだもん!」
「ハハハ。ギコ、その料理はこの汁物につけて食べるんだよ」
「ん?そうなのか、モララー?ふむふむ………お!美味い!」
「えっへん!どんなもんよ!」
「てめぇが威張ることじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
「お言葉ですが、僕もギコと同意見です。
何よりもこんなに濃い味付けなものばかり食べては、貴女は」
「あんたの意見なんて聞いてないわ。黙りなさいな」
「………………」
「きゃあ!痛い!何するのよ、ギコ君!!」
「こりゃあ失礼したぜ。てっきり蝿を叩いたとばかり」
「ひっどーい!!!」
「ま、まあまあ。僕は気にしてないから…。
シィナ姫も飛んだご無礼申し訳ありませんでした」
「……わかれば良いわ」
- 43 :名無しさん :07/11/25 17:23:05 ID:CXgllfju
- モララーに『上から目線』でそう言い捨てたしぃは、再びありえないほど甘ったるい味付けが施された
料理に手を付け始めた。俺たちも再び料理を口に運び出す。
この世界では常識と化した、会話のない食卓。
沈黙に耐えられないけど、あの姫がいるこの場を騒がしくするのはどうも気が引ける。
だから、俺は隣に座るモララーにこっそり耳打ちした。
「甘いもんばっか食って、しかも運動なんかしてるように見えねぇくせに、どういう訳か
太らないんだよなあ。あいつ」
「はは、そうだね。もし感情があるなら、世界中の女の子が羨ましがるに違いないなあ」
「体型だけ、な」
苦笑いしながら小声で答えるモララーに、俺はそう言い返してやった。そりゃあもう、心の底から。
「外見はともかく、あのアフォ姫の内面に憧れる女は絶対いないと断言できるぞゴルァ」
「ギコ、それははっきり言い過ぎ……まあ事実だけどね」
「あんた達。聞こえてるわよ?」
勢い良くナイフとフォークをテーブルに叩きつけ、すこぶる不機嫌そうにしぃが言った。
「だったら何だっつーの。陛下たちはもう助けてくれないぜ?」
「ぶーっ、何よその言い方〜! ギコくんサイテー!」
「はいはい、食事中に騒がない」
俺たちの痴話喧嘩を遮ったのは、使用人の一言だった。
「皆様。お食事が済みましたら謁見の間へお願いします。準備が整いましたので」
- 44 :名無しさん :07/11/25 22:04:35 ID:nbyqHTcF
- 「丁度良いタイミングじゃねぇか。モララー、行こうぜ」
「そうだね。僕達も僕達なりに準備しないと」
そこそこ腹を満たし、俺達は席を外す。
しぃは生憎食後のデザートを頬張っており、まだ立てない様子。
「それでは、僕達は先に行っています」
俺が扉のノブに触れかけた時、モララーは、
俺達とは離れて食事を取っていたモナーに律儀に礼をしてそう言った。
モナーは丁寧に口元を拭くと、モララーに細長いケースを握らせる。
再び軽く礼をした後、俺達は部屋から出ていった………
食卓の席に二人だけが残された。
ギコとモララーが出ていく寸前まで、仮面をかぶっていた少女は口を開く。
「モララーに、何を渡したの?」
襟の碧のブローチに触れながら、彼は困ったような表情を浮かべる。
「知らない方が幸せということもある……そうとだけ言っておきます。
――― あの二人は複雑な環境の中で過ごしているのですよ」
「―――『注射器』って……お前、大丈夫かよ」
「大袈裟だよ、ギコ。
『仕事』を初めてから、僕の身体にはこれが必要だってことは承知のはずでしょ?」
- 45 :名無しさん :07/11/26 17:17:22 ID:3sIKbyWL
- 「まあ……そりゃ、分かってるけどよ」
「ね? 僕は大丈夫。もう慣れたからさ」
俺に笑いかけながら、モララーはスーツの袖を腕まくりした。黄色い肌があらわになった
腕には、何本もの針の痕が痛々しく残っている。
「むしろ……この注射器がなくっちゃ、僕は『大丈夫』じゃなくなっちゃったからね」
そう言って、モララーは慣れた手つきで注射器を手に取り、迷う事無く腕に突き刺した。
いつも見てるが、正直言って慣れない。と言うか、見てるほうが痛い。
- 46 :名無しさん :07/11/26 18:38:00 ID:YFmx9S5d
- 「――― この注射を打たなければ、僕は一撃をふりかざすことさえ出来ない……
戦いを必要とする『仕事』についてるっていうのに、
戦えなくなるっておかしな話だよね」
薬の注入が終わり、注射器をケースにしまい懐に入れる。
捲り上げたものを元に戻し、痛々しいそれらはまたスーツの下へと隠れていった。
「……それが普通なんだろうよ。
――― 暴力を嫌い、血を流すのを嫌う。
俺なんかより、モララーはよっぽど人が出来てるぜ」
- 47 :名無しさん :07/11/29 23:42:25 ID:PkPPke8A
- 「ギコ……そんなことない」
首を横に振ることで否定を示すモララーの横を、
「あるさ」
音もなく、右足の【不死鳥】を露にした青年は通り過ぎる。
- 48 :名無しさん :07/12/01 10:28:13 ID:GdcLMh+u
- 「あー足がスースーして気持ち悪……」
不機嫌そうにそう独り言を言いながら立ち去るギコを、僕はただ黙って見送るしか
出来なかった。
呼び止めることは可能だったけど、そんなの出来るわけない。
例え出来たとしても、何かを言うことは出来なかっただろうから。
「……そんな事、ない」
無意識に、喉の奥から言葉が漏れた。
こんな事、ギコには絶対言えない。勿論、しぃ姫やモナー上司にも。
「僕は弱いんだ。だから、あの時だって……」
- 49 :名無しさん :07/12/01 12:23:37 ID:8Lh3AdGe
- その後の言葉は紡がれない。
言わずに心に秘めることが、最善の策なのだと彼は考えているのだから。
- 50 :名無しさん :07/12/01 23:12:10 ID:qU927H9t
- 今日の『仕事』が開始する。心を切り替えよう。
押し寄せてくる苦い過去に蓋をした。
すっかり遠くとなってしまったギコの背中を、モララーは慌てて追いかける。
- 51 :名無しさん :07/12/02 18:44:21 ID:JiCfm5aE
- 「待ってよ、ギコ」
咄嗟に、笑顔を顔に貼り付けた。
これ以上、ギコに心配はかけられない。
……
全部、僕が悪いんだよ。
弱かった、僕が。
『嫌だ!! 死ぬな!! ……嫌だあああああっ!!!』
ごめんなさい。
許してください。
僕は、君を救えなかった。
- 52 :名無しさん :07/12/02 20:28:40 ID:0Z5gh7qT
- 両眼を見開いた僕の手を握って、そんな悲痛な声で叫ばないで?
大丈夫だよ、死なないよ?
口から血が出ていて、腹に穴を開けて……説得力ないけど……死なないから。
僕も後から合流するよ?地を這ってでも君の下へ向かうよ?
ほら、早く逃げて。
後ろに、僕を仕留めて、君に狙いを定める奴がいるんだ。
なんで………声が出ない?
これじゃあ、最後の嘘も伝わらない。
お願い、逃げて。
あっ。
………『僕』は体験してない出来事の筈。
けれども、何故これほどの罪悪感を抱いてるのだろう。
よくファンタジー作品で、前世の記憶を受け継ぐとかあるけれども、そんな現実味がないのは僕は信じない。
それとも……自分が気付いてないだけで、精神が病んでいて……
有り得ない被害妄想を持っているのだろうか。
- 53 :名無しさん :07/12/03 23:08:51 ID:qlm2ThLO
- でも、
- 54 :名無しさん :07/12/04 22:42:54 ID:YNWkdA3s
- きっとそうだ。こんな記憶は僕の中に存在しない。
なんだろう?
百年前まで続いてた大戦の記憶?
人々が『感情』を失う──いや、捨ててしまう以前の世界の記憶?
いつもそうだ。
この城の中に入ると幻覚じみた白昼夢を見てしまうことが多い。
今見た記憶もまたそうなのだろうか?
時々、僕は自分の中に存在しない記憶を想起することがある。
僕が昔から持ってる第六感に起因するもの。
主に古代遺跡や古戦場といった史跡がある場所に足を踏み入れた時に見ることが多い。
なんていったらいいのかな。
その場所でかつて生きていた人達の想いが僕の中に入ってくる感じ。
残留思念というやつなんだろうか。
うっすらとだけど僕はそれを感じ取れることがある。
もっとも感じ取れると思っているのは実は僕の思い込み、妄想で
実際は「残留思念」も「第六感」も存在しないものかもしれない。
でもどういうわけか、その「白昼夢」は人の想いが強く遺っていそうな場所でよく見る。
僕達が生まれるよりも昔、この城と城下の街は戦渦に巻き込まれたことがあったそうだし。
さっき僕が見たような凄惨な場面もあったことだろう。
僕はギコの後ろを歩きながらこの国の歴史に思いを馳せていた。
するとそんな僕から無意識の内に発せられていた不安定な気配に感付いたのか、
ギコが首を此方に向け怪訝な表情で僕に声をかけてきた。
僕は大丈夫だと応えると、それきり妄想を打ち切り頭の中から締め出しにかかった。
謁見の間で待っているのは果たしてなんだろうか。
- 55 :名無しさん :07/12/05 13:52:19 ID:OknFpyEu
- 腹を満たしたしぃが謁見の間に来たのは、
俺達が『準備』を終え、すでに壇上にいらっしゃった王と王后に挨拶を交わした後のことだった。
毎度のことながら、壇上に上がる様は姫らしくない……つーか、女じゃない。
開口。正直、どうでもいいことをグダグダと語り始めるのも通例。
けれども、壇上を境にして上に立つしぃと、下で膝まずく俺達を見れば、身分の差は歴然である。
モナーは壇上の横で膝まずいていた。
時折、襟の碧のブローチに触れるが、表情を崩すことはない。
元の顔が元の顔なので、うっすらと微笑んでいる。
……壇上の王と王后は、しぃの話の、事あるごとに相槌を打つ。
それは愛しい愛娘の話だから打つようなものではなく、元々インプロットされたかのような機械的行動にしか見えない。
それで、満足なのだろうか。
しぃは笑顔で話し続ける。
……………………。
こういった差も歴然だった。
- 56 :名無しさん :07/12/05 15:19:50 ID:pLD/phYH
- 姫様は漸く気が済んだようで、いよいよ本題に入る。
横にいるモララーが発言する。
「ここに参る以前、僕達の仕事は『護衛』と聞きました。
どちらへ?」
俺は正直、期待してない。……『準備』をするのは、もう職業柄であって。
今までもこのアフォ姫を護衛したことがあるが、全部彼女の私利私欲に振り回された。
前回は『有名店のアイスクリームを食べたい!』という理由で、呼び出されたこともある。
……よく投げ出さなかった俺を褒めてくれ。
「おい。さっさと何所に行くか、言いやがれ」
だからこそ、しぃがあの場所の名を出すとは、あの場所へ向かおうとは思ってもみなかった。
「――― 国の国境線。いいえ、国の枠組みに面している【塔】に行きたいの。
行った事ないから行ってみたいなぁ〜って!」
「 「!?」 」
戦慄が走るどころの話ではなかった。
モナーは分かっているような顔をして少しも動じず、モララーはそこで止まっていたが。
俺は常識も正気も全て通り越して、乾いた笑いを、
狂う、くるう、クルウ。 ハ ハ ハ ハ ハ 。
ヒ ト ガ デ キ テ ナ イ 俺 ニ 、 御 似 合 イ ノ 場 所 ジ ャ ネ ェ カ ! !
- 57 :名無しさん :07/12/05 19:49:15 ID:dzNgFRh6
- 俺の隣で跪くモララーが唖然としているのが、何となく分かった。
でも、俺は止まらない。
ああ、訳が分からない。
ぐちゃぐちゃの頭の中に、あの禍々しい塔ははっきりと映像として映った。
……【塔】。
俺たちが暮らしているこの国の国境線沿いには、【不可視の壁】が張られている。
それはその名の通り、目には見えない、触れた者には何者であれ例外なく死を与える巨大な壁。
そして【塔】の最上階には、【不可視の壁】を出現させている大げさな機械がある。
あんなもんに、あのアフォ姫は一体何の用だ?
狂う脳内で、小さくて大きな疑問が生まれた。
- 58 :名無しさん :07/12/06 14:43:14 ID:zJkeMThO
- 俺がそう思った時にモララーは代弁してくれる。
「何故!何故、【塔】に向かうと言うのです!」
珍しいことに、モララーは動揺を隠せずに発言している。
それは仕方ない。当然の反応だ。 モララーは知っている、どれほど危険なのか知っている。
「聞いてなかったの?………クソモララー。
『行ったことがないから行きたい』って言ってるでしょ」
「一国の姫ならば、危険性は充分承知のはずでしょう!
それとも、何ですか!! 貴女はそこまで世間知らずなのですか!!」
「モララー!口が過ぎているぞ!」
「……ッ!」
モナーの叱責が跳んできた。自分の上司、ましてや義父親に言われてしまえば、黙るしかない。
これでも慎重に言葉を選んでいたのにな?
人が出来ているモララーはそれでもなお何か言いたい様子であった。
俺は彼の肩に手を置く。表では彼を励ますような素振りに見えるだろう…でも、今の俺にはそんな気は全くない。
「――― いいじゃねぇか、モララー。好きにさせりゃあいい。
俺だって気になってはいるさ。余程の馬鹿じゃない限り、あの【塔】に向かう奴なんていない。
けど……モナーの様子を見る限り、何かあるんだろう。俺達には言えない何かが。
言いたくないなら、俺はそこまで追求しないぜ? 只でさえ面倒な立場だっていうのに、これ以上ややこしくはしたくねぇし。
だが、言っとくぜ? ……俺のこの身に変えても、 命 は守ってやる。これが俺の仕事だしな。
けれども、 俺 は 【 保 障 】 し ね ぇ 。
何の【保障】かは自分で考えな。 解からなくても別にいい、かまいやしねぇよ。
ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!」
- 59 :名無しさん :07/12/07 00:53:03 ID:Pq+k00tP
- ――― 何……? 何なの?
私が見下ろしている彼は薄くにやりと笑って、こちらを見上げていた。
只のにやりではない。笑いながらも、鋭く私を見る眼は紅く染まっている。
いつもの彼ならば、例え邪険であろうと、こんな笑いはしない。
目が合うと、さらに彼は笑いを濃くした。
【保障】はしない。その言葉を私に植え付けようとしているのか、瞬き一つしない。
目を背けようとするが、呪縛にかかったかのように何一つ動かせない。
……恐怖が沸き上がってくる。
この目の前にいる彼は、確かにギコ君なのに。
私は、こんな彼を知らない。
「ギコ、静まりなさい」
体が恐怖に支配される寸前、横斜め下からモナーの静かな声が聞こえた。
動揺はなく、通常の表情から笑みが消しとんだ表情を浮かべている。
「ヒッヒッヒッ。義父上様よォ……俺はこれでも随分落ち着いてるぜ?」
「状況をわきまえろ、××息子。
『仕事』の時ならともかく、
このような場所で……何事だ?
――― 静まれ、ギコ・ハニャーン」
モナーが再度そう言ったのを合図に、意識を失うかのように彼はフッと眼を閉じた。
同時に、私にかかった呪縛が解かれる……
黒スーツのスリット。
その合間から、蒼の【不死鳥】を見せる青年は頭を降る。
頭に痛みが走っているらしい。青年はしかめっ面を見せる。
そこにいるのは、私が知るギコ君だった。
「………礼は言わねぇぞ。クソ親父」
- 60 :名無しさん :07/12/07 16:03:21 ID:PZdEE/t5
- ………頭が、痛い。けれども、これは一時的なものだ。
先程まで頭の中はぐちゃぐちゃになっていたのに、
……悔しいが、モナーの言葉で一気に平常心に戻った。
清々しいほどに思考は研ぎ澄まされ、あの状態の俺が何を吐いたのか、しっかり理解していた。
『俺』は、事実を言ったまで。だろ?
今の状態の俺だってそう思っている。
【保障】は出来ない。そこまで俺は面倒を見れないし、見るのも御免だ。望むのなら、何度だって言ってやる。
ありがたい事に、誰も繰り返しを望む者はいなかった。
壇上のアフォ姫は当惑し、クソ親父は冷静でいて、義兄弟は寂しげでいる。
俺が『ああ』なるのは、そう珍しいことじゃない。
通常の場では人並みに稀であるが、『仕事』のレベルが上の時、ああなる確率は高い。
自分でも知らぬ間に感情が激情し、自分で自分を疑うまでに俺は 【 狂 う 】 。
90パーセント、セーブは不可能と数値で示された俺は、ああなった後は大抵放って置かれる。
今までで一度も外部の人間に危害を加えないからって…常識じゃ考えられないと思うけどな。
放って置かれた時、雨の日は最高だ。雨に当たってずぶ濡れになれば、感情は冷めていくのだから。
手っ取り早い方法もあることはある。
だが、俺は気にくわねぇし、絶対にあちらだってやりたかねぇでやってるだろうよ。
奇妙なことに、ムカつく事に。
つい先程のように。モナーの言葉で、半ば強制的に俺は通常に戻る。
なんでかって?さあな、俺にもわからねぇ。モナーに聞いても「わからない」の一点張りだ。
いつか「親子だからでは?」と言われた時には虫唾が走ったが。
正直、理由を見つけるのには飽きた。
何度も何度も頭を張り巡らせた結果、何もわかりやしなかったのだから。
そうなってるのだから、そうなるのだろう。
……そう、結論づけた。
- 61 :名無しさん :07/12/08 23:43:14 ID:XVkXNlgM
- 「わかったんなら、とっとと出発するぞ。
【塔】までは結構距離があるからな。
モララー。すまねぇが、アフォ姫を任せた。
………先に外の空気を吸わせてもらうぜ」
頭を抑えながら、ギコは一礼すると退場した。
一時的なものとはいえ、痛いものは痛いらしく、
何よりも今現在の雰囲気からすると、一足先に退場することは得策だと思ったのだろう。
うん、正解だよ。ギコ。
『あの』ギコを見て、お姫様は深く動揺している。
僕でさえ、慣れないで、寂しい顔を見せてしまったしね。
「シィナ姫、参りましょう。
そんな風にならなくても、ギコは大丈夫です。
後でダッコでもねだれば良いでしょう、素直にやってくれるかもしれませんよ」
壇上から降りてくる姫は、小さく一回身震いする。
「あれはギコ君だったの…?」
「ええ、ギコです。僕も一週間ぶりに見ました。
実を言うと、昨日も『ああ』なったそうです。
待ち合わせをして、僕が遅れて少し怒られたけれども……
心の中では、ありがたいと思ったかもしれません」
「ギコ君は、【保障】はしないと言っていた。
何の保障なのか、貴方はわかる?」
「いいえ。わかりません。
仕事の内容から推測すれば『命の保障』でしょうが、彼は違うと言った。
ですが、これだけは言えます。
――― ギコが【保障】出来ないものは、僕にだって無理ですよ」
- 62 :名無しさん :07/12/09 07:34:29 ID:Qe47TucB
- 「先程はとんだ無礼を…申し訳ありませんでした」
「フン。あんたの言葉なんか聞き流してるから、何を謝られているのかわからないわ」
ピシャリと言われ、いつもならば眼光を鉛色に濁らせる場面だが、モララーは少し微笑んだ。
理由はわかっている。まだ少しは動揺しているとはいえ、シィナは『いつもの』調子に戻りつつあるからだ。
漸く、ギコと目を合わせられる顔となったところで、黄色の【不死鳥】を持つ青年は扉に手をかける。
「あんたにしては気が利くようになったじゃない。使用人に比べれば、まだまだだけど。 モナー!」
壇上の横にいるモナーは軽く首を横に振った。
「……私は済まさなければいけない用事があるので、今は共に行けません。何、すぐに終わりますよ。
モララーも言ったとおり、××息子に抱っこをねだっていてください。
あの子も最近させてもらえなくて寂しかった様子ですしねー、『ああ、シィナに触れてねぇ〜』とも言ってましたし」
ない、そんなことない。モララーは心の中でそう突っ込みを入れた。
「本当に? じゃあ、すぐに強請らなくちゃ!早く行きましょう! ……って、その前に」
少女は壇上を振り返る。上にいるのは…感情を失ってしまった、彼女の両親。
その変わり果てた姿をまじまじと見つめて、一瞬、醜い仮面が取れそうになったが、少女はぐっと堪えた。
お父様、お母様、待っていてください。私達はきっと甦らせてみせるから。
全てが終わった時には、私を叱って、そして笑ってください。
今は届かない、言葉を言おう。
「――― 行ってきます」
- 63 :名無しさん :07/12/09 09:22:47 ID:+UWLCc3H
- 静寂が訪れる ――― 薄気味悪いほどにそれが似合うようになってしまった、この世界。
モララーとシィナが退場し、碧のブローチを光らせるモナーは壇上の前へ歩を進める。
見上げればそこにいるのは、見送りの表情のままでいる王と王后の二人。
彼は懐から煙管 ― キセル ― を取り出すと、そのまま口に銜える。
「楽しんでいるところか?」
モナーはどこにいうまでもなく、そう言った。壇上にいる王と王后に向けたものではないのは明らかであった。
いや、もう王と王后はモナーの言葉を聞いていない。
モナーが煙を吐き出すやいなや、
ドドドドドドドドドドドド…バタン!
壮大な音を立て、壇上を転げ落ちてきたのだから。
自分の左に、右に。モナーは転がり落ちてきた男女の外傷も内傷もないことを確認すると、彼らを丁寧に寝かせた。
薄く半開きとなった目も閉ざして、踵を返す。
「私は貴様に負けるつもりは毛頭ないようだ。
証拠に、捨てたはずの正の感情を私は抱いている。それに加え、貴様に対してのこの感情もな」
煙管が細かく揺れるたびに、近くにいた使用人達は次々に崩れ落ちる。彼らの体を支える糸が切れたかのように。
モナーが扉へたどり着いた時、謁見の間で立つ者は一人もいなかった。
広間の隙間を埋め尽くすほどの崩れ落ちた人間を見渡し、煙管を銜えたモナーは出て行く。
「――― 私は、貴様が大嫌いだ」
出て行く際に言った、その言葉は、謁見の間でいつまでも反響していた……
その者が望もうが望むまいが、世界は動く。
彼らの様々な思惑が飛び交う中、不条理に、無慈悲に、動くのだ。
無意味だと、不可能だと、何も生まぬと。 貴様は嘲笑うのか?
それならば、貴様が滑稽な傀儡だと思っている者達の舞をお見せしよう。
さあ、楽しまれよ。
――― 序曲は終わった、本曲に入るぞ。
- 64 :美怜 ◆GIL.EWAhDE :07/12/09 20:11:17 ID:XJllTu+q
- 「……【塔】かえ」
何所でもないどこか。
永劫の闇の中で、ただ1つ。
紅い焔の灯りは、煌々と輝いていた。
「妾の真の望み……おぬし達に、叶えられるかのう」
一瞬だけ、焔の強さが増す。
赤と橙のコントラストが美しい焔に、巨大な【不死鳥】の影が、映った。
「……真の【転生】を!」
- 65 :名無しさん :07/12/10 08:35:42 ID:eTFimO3A
- 「ギコ、空の様子はどう?」
「……ああ。運転中だからそんなに見上げられねぇもんな。
灰色の曇り空だぜ。
昨日みたいに強い雨が降るよりかはマシだけどな。
ここしばらく見てねぇ、おてんとうさまは、いつ姿を見せてくれんのかねぇ………
―――――――― ?」
「どうしたの?」
「今、何かが雲と雲の間を通りすぎた……」
「具体的に言ってみて」
「赤と橙のコントラストの、焔の塊みたいなもんが見えた」
「えー、私には見えなかったよ」
「………気のせいか?
つーか、それ以上ひっついてくんなァァァ!!」
高級車の後部座席は騒がしい。運転手は苦笑している。
そんな中、助手席の男性はチラリと見上げ、誰にも聞こえない言葉で呟く。
「――― 空飛ぶバイクなら、見えたがな」
「――― 感づかれたぜ、フサ」
「 」
「バイクの運転中に、流石に 手 話 は無理だろ。
平気だ。オレが後ろをちゃんと見てるから。
こんな時の機械もあるから、そっちに思念を飛ばしてくれ」
「 」
「ピース? ――― オレの名前を呼んだのか。
『Two』……… ツー、だよな」
- 66 :名無しさん :07/12/11 08:03:43 ID:V21niqAr
- ハンドルを握る彼――― フサは、首を縦に振って肯定した。
後部座席に座る人物――― ツーも、ヘルメットの下でニカッと笑う。
何を原理にして、鉄の塊が宙を走っているのは知らないが、
皮肉にも、一国を消滅させるほどに進歩した科学のおかげなのは言うまでもない。
また、
「『様子はどうだ、敵意はあったか?』」
話せないフサがこういった状況で意思の疎通が出来るのも。
ツーの左手首には腕時計型の機械が備わっており、その中のモニターに映し出されている文字を読み取る。
「いいや。警戒止まりだ」
「『無難な行動だな。
露骨に、彼方を双眼鏡で見るのは控えた方が良さそうだ。
ただの一般人だっていうのに、盗賊やら不審者と思われるのは嫌だから』」
「OK……」
- 67 :名無しさん :07/12/12 20:20:16 ID:9UfUao06
- 双眼鏡から目を離す。鮮明に見えていた車は只の黒点となる。
携帯用双眼鏡を腰に戻し、ツーは軽く息を吐くと、フサの背中に寄りかかった。
「『安全装置には、気をつけて欲しいから』」
肌を通じて背中の温もりを感じる。
そんな中、彼の腰に違和感がある…そこだけが冷たい。
上着に隠れて見えないが、そこにある物は安易に予想できた。
「わかってる。ただの一般人ねェ…?
普通、ただの一般人が安全装置なんて言葉、使うかよ?」
- 68 :名無しさん :07/12/12 23:06:57 ID:OI1vu9SN
- ……隠された物に触れ、彼の背中を小突く。
- 69 :名無しさん :07/12/13 01:26:31 ID:grDrGzOa
- 彼からの返答はない。
ツーは一人微笑をこぼし、目を閉じる。
烈風と車の音だけが、彼らの感覚を支配した。
- 70 :名無しさん :07/12/13 06:42:53 ID:wVMP6b6p
- その際、彼女の首に巻かれていたスカーフが解かれ……
宙に放たれたのは、偶然か。それとも必然か。
- 71 :名無しさん :07/12/14 19:14:15 ID:QQ+xIJ8Q
-
ヒラリと落ちてきたそれを、手を伸ばして私は掴む。
空から舞い降りてきたのは、天使の羽みたいなファンタジーなものではなく、
薄い黒いスカーフだった。
……仄かに温もりを感じる。ついさっきまで誰かが身にまとっていたみたい。
「どうやら、落し物のようですね」
気づけば、煙管を持ったまま、モナーは私の方に向いていた。
- 72 :名無しさん :07/12/14 20:43:52 ID:SLgteSu7
- 黒
- 73 :名無しさん :07/12/14 20:47:30 ID:SLgteSu7
- 黒は珍しい色ではない。
この世界では当たり前の、ありふれた色。
- 74 :名無しさん :07/12/15 22:52:11 ID:Hov8HhHU
- だから…より一層、私達が身に刻んだ【不死鳥】のように、
そのスカーフに縫いこまれた文字は一際目立っていた。
- 75 :名無しさん :07/12/16 21:52:28 ID:/7mSo/G6
- 「Rebirth.…I believe you will rise from the ashes」
「再生。私は、貴方が廃墟の中から蘇るだろうと信じています=c…ってか」
- 76 :名無しさん :07/12/16 23:52:39 ID:4cfSbyQU
- 「! ギコ君、読めるの!?」
「……失敬な。俺だって、英語読めるくらいの学はあるぜ」
素直に驚く私を乗せて、ギコ君は不機嫌な顔で言った。
私も一通りの教養はついているので、このくらいの文章は簡単に読める。
- 77 :名無しさん :07/12/18 20:47:03 ID:GW7b0ewD
- 「さっすがギコくん! しぃちゃん大尊敬〜」
「おめーに尊敬されたってちっとも嬉しかあねえな」
とりあえず、普段どおりに振舞ってみる。当然のように一蹴されちゃったけど。
だから、とりあえず頬を思いっきり膨らませてみた。
「ぶー」
「……姫」
運転席のモララーが、私達の他愛ない喧嘩を遮って、言った。
「【塔】が見えてきましたよ」
黄色い猫の、いうとおり。
遠くの方に、天高く聳え立つ古びた建造物は、確かに見えていた。
- 78 :名無しさん :07/12/18 22:44:37 ID:PDjASL5B
- ついにやってきた。
国境線沿いの【不可視の壁】を出現させている機械がある、【塔】に。
「ギコ」
「別に、今は何ともねぇよ」
煙管を閉まったモナーの声に、ギコ君は素早く返す。
……『何ともない』というのは、先程の豹変のことを言っているのだろうか。
- 79 :名無しさん :07/12/18 23:27:33 ID:wBI9MfKb
- モララーはなんてことない様子でいたけれど…
また会うことがあったら、私は同じ反応を示す気がする。
早かろうが、遅かろうが、少し覚悟をしていた方がいいのかもしれない。
「スピードを上げましょうか、【塔】はもう目の前です」
バックミラー越しに後ろを見て、モララーはアクセルを踏み込もうとしていた。
そこに、私の手にある黒いスカーフを見ていたギコ君の停止が入る。
「ちょっと待ってくれ。このスカーフって、落し物だろ?
こんな文章が縫われているところを見ると、結構大事な物じゃねぇか?
持ち主に届けなくてもいいのかよ」
私も心の中でそう思う。
布の性質といい、文字を縫うのに使われた糸といい、決して高値ではないが別の温もりを感じた。
これは手作りのもの。しかも、それを使っていた持ち主も懇切丁寧に扱っている。
早く【塔】に行きたいことは行きたいけれども、このまま届けずに向かうのはどうも気が引けた。
判断に迷いかねた私達に、モナーは静かに言う。
「大丈夫だ。
このまま向かえば ――― スカーフの持ち主には、すぐにでも会える。
その時、どんな形で対面するかはわからんがな」
- 80 :名無しさん :07/12/24 18:46:42 ID:UqFebJK6
- 何処となく核心めいた物言いに、ギコ君はやれやれと首を振る。
「一仕事あるかもしれない、ってことかよ。
今現在、この世界で『感情』を持っていると確認されているのは俺達だけ。
なのに、事は起きやがる」
「お前にとっては、『仕事』をこなすことは満更でもないだろう?」
「……………。
へいへい、わかりやした」
彼等の台詞に時折入る『仕事』という言葉に、何時もながらの疑問を思いながらも、
私は黙ってギコ君に抱きついていた。
モナーはモララーに指示する。
「このまま【塔】に向かえ。
周囲の状況に目を配るよう」
「わかりました」
アクセルが踏み込まれ、車は加速する。
………ふと、後ろを振り返ってみた。
父と母がいる城は、すでに遠い影となっていた―――
- 81 :名無しさん :07/12/25 09:38:30 ID:ocIRzDOv
- ちょうど【塔】の裏口。
「あーあ。あのスカーフ…どっかに落としちまった。
服との組み合わせも良かったから、結構お気に入りだったってのに」
目的地につき、バイクの後部座席から飛び降りたツーは、
物足りなくなってしまった箇所に触れながら、残念そうに呟いた。
ツーが脱いだヘルメットを受け取り、自分自身も脱いだフサは、
バイクに括りつけていた、布に巻かれた細長い筒を彼女に投げてよこした。
ツーは片手で受け取る。
「『大丈夫だよ、誰か拾ってくれている人がいるって』」
「そうかー?今までこういうので親切な奴っていなかっただろ」
布の隙間から見えるのは、黒鞘に納まった日本刀。
- 82 :名無しさん :07/12/26 10:34:40 ID:hTa8ByE5
- 「フサ。今まで何人斬ったか覚えてるか?」
「『いちいち覚えていられないな、そんなの』」
「だろー?」
呆れたように答えるフサに、けらけら笑いながら同意を求めるツー。
ふと、その笑顔が消えた。
「お前が声を失ったのだって、全部襲われたからだろ」
茶色い毛に覆われた彼の喉に、目がいった。
毛のせいでよく見えないが、割と大きな古傷が、彼の首に大きく刻まれている。
- 83 :名無しさん :07/12/26 14:55:39 ID:IlngYmQO
- フサは自分の喉をゆっくりと、傷をなぞるように撫でた。
バイクから降り、手を動かして言葉を伝える。
……軽く微笑みを浮かべながら。
「『生きていられるなら、どうってことないよ』」
機能しない声帯。
口も動いているが、そこから彼の声が聞こえることはない。
「『命あっての物種、って言うだろう?
自分の強運に感謝しなきゃいけないから』」
- 84 :名無しさん :07/12/27 17:29:10 ID:mhOrdxKE
- 彼女は軽く笑い、機会にチラリと視線を向ける。そして
「もうすぐ仕事だ。その強運が続くように神にでも祈っておけ。」
と告げた。
「『『神』・・・ね。』」
彼の『声』は既に裏口に向かって歩を進めている彼女に伝わるはずも無く、フサはため息を付いて自分も後に続いた。
- 85 :名無しさん :07/12/27 23:39:52 ID:N5ZSTDCD
- 「『神に祈れ、だなんて………
らしくない台詞だ』」
- 86 :名無しさん :07/12/28 23:45:10 ID:bUg9gtKm
-
本音じゃない限り、
この世界では、祈りは通じやしないのに。
- 87 :名無しさん :08/01/12 00:21:35 ID:jy/Hk4Zm
- それからは特に何事もなく【塔】に着いた。モナー、モララーが順に出ると、俺はいつまでもくっいていたアフォ姫を蹴りだしてようやく下車した。最後に降りた者の義務として俺はドアを閉め、ロックをかけ、ポケットに鍵をしまった。
奴等は今この【塔】特有の面倒な訪問者登録をやっている。戸籍に書かれている内容は全て入力するのはもちろん、好きな食べ物や好みの異性のタイプまで入力するのはやりすぎじゃないか?
恐らくモララーが俺の分までやってくれているだろう。その間俺はぼんやりと【塔】を眺めていた。
- 88 :名無しさん :08/01/12 19:28:55 ID:MYpgVfWD
- 「……【塔】か」
この建物を見ていると、どうしても思い出す。
……忌まわしいあの出来事を。
「【不可視の壁】の向こう、絶対行こうな! 約束だぞ!」
「うん! 僕とギコとの、2人だけの約束!」
生まれながらに感情を持ってしまったからこそ持ってしまった、無駄な好奇心。
それに駆り立てられて、叶いもしない夢を追い続けた、幼かった俺たちの下らない口約束。
結局、果たせなかった。
- 89 :名無しさん :08/01/12 20:16:36 ID:a5hijIq+
- 嗚呼。久しぶりだな。
相変わらず、堂々と聳え立ってるじゃねぇか。
俺は変わっちまったよ。
強くなった代わりに……最高に、成り下がったぜ?
- 90 :名無しさん :08/01/13 01:53:51 ID:LlgrfYab
- 「ギ〜コくんっ!何してるの〜?」
突然背後から聞こえてきた甘ったるい声に慌てて振り返ると、案の定アフォ姫がそこに立っていた。
「柄にもなく物思いにふけっちゃってぇ〜。ひょっとして、かわいいしぃちゃんの事を考えてたんでしょ?」
冗談じゃない。俺はその意図をゲンコツで伝え、モララーたちの待つ門に歩きだした。
過去のことをあれこれ考えるのは後にしよう。今はただ、『オヒメサマのワガママ』につきあっていればいい。片手間でできる仕事じゃないのは解っているのだから。
−−−−『The die is cast.』
ふと、ユリウス・カエサルのあまりにも有名なこの言葉が頭にうかんだ。はたしていま投げられたのは『サイコロ』なのか、もしくは『死』だったのか・・・
- 91 :名無し :08/02/04 01:16:33 ID:kmoMsqSt
- 『「どうやら、正規の入り口から侵入しようと裏口から侵入しようと大して差は無かったようだな。」』
二人が【塔】に侵入してから初めてツーの機械に表示されたこの言葉は彼女達の周りの景色を的確に表現していた。
「全くだ。蛍光灯に怪しげな機械、床に張り巡らされたコード以外はなんにもねぇ。
おいフサ!本当に全部ダミーなのか?」
『「その筈だ。俺達が探しているものはこの【塔】の最上階にあると【クライアント】からは聞いている。
その上、物が物だけにここにある全ての機械はダミーどころか全て警報機のスイッチだと考えて間違いない。
もし、感情に任せてブっ壊しでもしたら即刻、【プリズン行き】決定だよ。
それにしても、よくこんな大層なもん作る気になったよな。俺だったら二秒で挫折してるよ。」』
全くだ。
ツーが再度同じ言葉を返すと、辺りには再び足音のみが響き始めた。
- 92 :名無しさん :08/02/21 14:30:16 ID:M7hN/A1+
- どうにか登録を終えて、俺たち4人は【塔】の中へ足を踏み入れた。
ごうん、ごうん、ごうん。
あちこちに延びた機械のパイプが、重苦しい音を発している。
時々、ぶしゅう、と派手な音を立てて蒸気を上げ、その度にしぃは大げさな悲鳴を上げて
俺に飛びついた……が、すぐに引き剥がした。
「それにしても大げさだよな」
「ぶー! 怖いものは怖いんだもん!」
「違ぇって!」
食いついてきたしぃにぴしゃりと怒鳴りつける。誰もお前に言ってないっての!
「訪問者登録の事だよ」
「……確かに。好きな食べ物や好みのタイプまで、とはね」
「んなもん次に来た頃には変わっちまってるっての」
「それは次があるかどうかの話だけどね」
笑いあいながら、モララーと他愛もない話をする。危うくここに来た目的を
忘れかけるところだった。
……クソ親父の警告を、聞くまでは。
「2人とも、静かに。……誰かいるモナよ」
- 93 :名無しさん :08/03/17 19:51:06 ID:tyVfvYHK
- 「マジか?俺、何も感じねぇぜ?」
「僕もだよ。
僕達が気配を感じなくて、父さんが感じられたってことは、
相手は相当……優秀だってことだね」
- 94 :名無しさん :08/03/24 22:44:40 ID:pArsy+mJ
- 怪しげな機械の音だけが鳴り響く。
ついさっきまでアトラクション感覚だったこの場所も、一気に張り詰めた所となった。
息を殺し、親父はヘビのように鋭い目である一ヶ所を睨みつけている。そこには、ひときわ大きい機械があった。
全ての面が鈍い銀色で、まわりの機械と繋がるパイプが数本ついている。
音は全て消されているだろう。近くにいないと声さえ聞こえづらい。
そこを見据えながら、親父はゆっくりと忍び足で近づいていく。
俺は腕にしがみついてきたアフォ姫を払いのけると、モララーに目で合図して親父の後に続いた。
- 95 :名無しさん :08/03/27 12:08:40 ID:E4oisV9I
- 『「……まて。誰かいる」』
フサのその『言葉』はこちら側の空気もピンと張り詰めさせた。
「ったく、まじかよ。数は?」
『「2〜3ってとこだ。先に飛ばしていた【ネズミ】に気づいたようだ。」』
「どうするよ?」
『「此処から大分遠い。ルートを変えて上るのがいいだろう」』
「だとすると……」
ツーはそういって腕の機械を少しいじり、顔を上げた
「ここから8時の方向に行って大回りするのがベストか」
『「ご名答」』
短い会話はここで終わり、二人は音も無く走り始めた。
- 96 :名無しさん :08/03/27 17:37:36 ID:PhQ94Sie
- 「……なんだそりゃ」
糞親父が白い指でつまんでいるそれを見て、俺は心底不機嫌な口調で言ってやった。
「何って、【ネズミ】だよ」
「んなもん見りゃわかるっての!」
モララーにそう突っ込まれ、同じく突っ込みで返す俺。
こんな漫才をしている状況じゃないだろ俺ら。
「……【ネズミ】……小動物型の偵察用ロボモナね。こんなもの、どこで手に入れたんだか……」
親父の指がつまんでいるのは、文字通り【ネズミ】の尻尾。
素人が見ればよくできたおもちゃにでも見えそうなそれ。見ていると豆電球の瞳が休みなくちかちかと光り、
ときおりジージーと鳴き声が……否、歯車のような機械音が鳴った。
「とりあえず破壊しませんか? 盗聴や盗撮機能がついているはずですから」
「そうモナね」
モララーの提案にうなずき、親父が【ネズミ】の尻尾をつまんでいた指をぱっと離す。かしゃんと音を立てて
床に落ちたそれを、親父の革靴を履いた足が容赦なくぐしゃりと踏み潰した。
うわ、遠慮なし。ってかえげつねえ。まあ今に始まったことじゃないが。
「ねえねえ、これってもう1匹ぐらいいないの?」
そう思ってると、後ろからアフォ姫に尋ねられた。
「? 何でだよ」
聞き返すと、しぃはちょっと勝ち誇ったみたいにこう言った。
「あら、分からない? 盗聴とか盗撮とか、物騒な機能だけ取っ払っちゃえばただのおもちゃじゃない。
よく見たらちょっと可愛いし、欲しいかも……って」
「ただのわがままじゃねえか! 後でおもちゃ屋にでも行って来いゴルァ!」
「何言ってんの! 私は姫よ! 町になんか出られるわけないでしょ! じゃあ、その時はお願いねあなたたち♪」
「だが断る!!」
生命を狙われているかもという危機感が無くなった途端、たちまちけたたましくなる雰囲気。結局、
モララーが仲裁するまで俺とアフォ姫の痴話喧嘩は続いた。
「……おかしいモナ」
親父の独り言に、誰一人気づかないまま。
「さっき感じた気配は、このおもちゃのじゃなかった……」
- 97 :名無しさん :08/03/28 10:15:02 ID:1WvtFck0
- 『「【ネズミ】が消された」』
フサの舌打ちと共に腕に付いた機械のディスプレイ上に文字が現れた。
「マジかよ」
『「マジだ。折角、【モナジェクトX】録画してたのに全部パーだ」』
拳骨。頭を抑えながら目に涙を浮かべているフサにツーが吐き捨てるように言った。
「組織の備品で番組予約なんざしてんじゃねぇ!親父趣味が!」
『「だって来週で最終回なんだぞ?カウントダウンが始まったら全部見るのがファンの礼g」』
「どうした?……いや、なるほどな」
『「流石、勘がいいね。ここだよ」』
フサはそういい、おもむろに右手を伸ばした。その指がパネルに到達するとめぐるましいスピードで
タッチし始めた。やがて機械がかん高い電子音を発した。
「凄い凄い」
口笛を吹いたツーが上を見上げる。天井に直径3M程の穴が空いていた。
『「喋るな。舌噛むぞ」』
機械にそう表示された瞬間、足元からなにかが割れるような音が2人の耳に届いた。
「おいおい大丈夫なのかあああああぁぁぁぁぁ!」
その場に叫び声が響いた時には2人の姿はそこから消えており、いたはずの場所にぽっかりと穴があるだけであった。
- 98 :名無しさん :08/03/29 01:23:34 ID:BDWHDC24
- 唐突にアフォ姫が後ろを振り向いた。半分腕にぶら下がれているような状態で
体ごと振り向くもんだから重心が狂う。結果、転びそうになった。迷惑この上ない。
まあ腕に当たる感触の心地よさは否定しないが。
「どうされました?姫?」
モララーの声が響いた。クソ親父もこちらに注意を向ける。
「黙れクソモララー。ぎ〜こく〜ん、いまあっちから変な音が聞こえたの。怖いから確かめてきてよぉ〜」
「……生憎だな。俺は今考え事をしているんだ」
「考え事?」
「ああ、そうだ。俺は今、どうやったらお前のクソ甘ったるい飯に
枯葉剤を盛れるかを脳みそ120%フル回転で考えてるんだ。」
「ひっど〜い!いいもん。クソモララーに全部毒見させるから」
いつもの漫才で長くなると判断したのか、クソ親父が手で制した。
「二人共、痴話喧嘩はお終いにするモナ。姫、どのような音が?」
アフォ姫はわざとらしく考え込むようなそぶりをした後、
上に向けた手の平をもう一方の手のこぶしでポンと叩いてからこういった。
「断末魔…かな?」
- 99 :名無しさん :08/03/29 01:23:54 ID:BDWHDC24
- 「OK、スルー決定だ。」
「ギコくんひっど〜い!」
「死んでる類はめんどいからいやなんだよ!」
「モナは痴話喧嘩は止めろって言ったモナ?」
クソ親父の冷たく鋭い眼光と鶴の一声でその場は収まった。その後、
その場で話し合いという名の一方的な拒否権無しの脅しが行われた。
決まった事は二つ。一つは今から全員で例の音源を捜査する。もう一つは
町に戻ったら最新式の【ネズミ】を俺がアフォ姫にプレゼントするという
内容だった。しかも自腹で。いくらすると思ってんだ、クソッタレ!
「どんな手を使うんだ?」
出発直前、誰にも気づかれないようにモララーが俺にこっそりと言った。
俺が何のことか分からずにポカンとしているとじれったそうに小声で付け加えた。
「枯葉剤だよ枯葉剤」
合点がいった。コイツはさっきの事を本気にしてるんだろう。まあ毒見はやらされる
のは確定だからしょうがないが。正直案は浮かんでいなかったが、適当に耳打ちすると、
モララーは満足げにうなずき、クソ親父の横という自分のポジションに向かっていった。
- 100 :名無しさん :08/06/23 17:17:54 ID:2XFVFCch
- いきなり床に開いた黒い穴に吸い込まれ、着地態勢も整っていない状態でツーは底へ落ちた。足は下を向いていたものの、
伸ばしきっていたせいでまともに着地できず、ドスンと盛大な音を立てて尻餅をつく。それと同時に、大量のホコリが舞った。
「お前なあ! 落ちるなら先言えよ!!」
頭の中が混乱しているせいか、片膝をついて軽やかに着地したフサに対しての第一声はそれだった。
そんなツーを見て、フサは顔を引きつらせながら苦笑いをする。
『「悪い悪い。ツーなら上手く着地するかと思ったけど……そうでもなかったな」』
あざ笑うようにそう話すフサを見て、ツーの怒りのボルテージはMAXになった。
すくっと起き上がり、フサの胸倉を勢いよくつかむ。至近距離でフサを睨むその顔は、まさに鬼だった。
「てめえなあ! 人をおちょくるのもいい加減にしろよ!? こっちは心臓止まる所だったんだぞ!?」
ガクガクと頭を揺すられ、フサは返事すら出来ないでいた。いや、ツーが返事をさせないようにしていた。
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