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一行じゃないけど物語を書いていくスレ
- 1 :海老天 ★ :07/11/04 00:39:44 ID:???
- 要望板>>6によりスレ立てします。
このスレはリレー小説を書くスレです。
・誰でも参加できます。
・本文に入る前に前のレスナンバー「>>前のレスavを入れて下さい。
(ダブりによるストーリーの混乱避け。重なってしまった場合は先に投稿されたものを優先して続ける)
・できれば連投は避けて下さい。
・世界観を大切に。
>>2の人がスタートさせて下さい。
- 2 :名無しさん :07/11/04 00:48:31 ID:kgoFeaqy
- 雨も滴るいい男とは、このことか?
俺にしちゃ、これほど不愉快なことなんてありゃしないんだが。
服に幾度ともなく水滴が流れ込んでくるわけで、このまま放置したら風邪ひくかなーとか思う。
俺の前を幾度ともなく人が通り過ぎていく。
誰も彼も、雨の中でポツンと立っている男を無視して通り過ぎていく。
この世界では喪服のような黒服が通常服である。
俺も黒スーツ、黒ネクタイをしめている。
そして、背後より慌てて傘を持ってきたこの男も。
「ゴルァ…おっせぇぞ、モララー」
「ご、ごめんだからな。こっちもいろいろと大変だったんだ」
「………。
………あの冷酷白肌×××モナー野郎にどっさり『仕事』を貰ってたのか」
「ギコッ! 上司の悪口はいけないんだからな!」
- 3 :名無しさん :07/11/04 08:03:41 ID:FuUzTf4w
- >>2
「あんな奴は、悪口の一つや二つ言われたって仕方ねぇんだよ」
雨が当たらなくなった。
俺の頭上でモララーが傘を広げてくれたのだ。
「ギコがどう思うが、駄目なものは駄目。
彼と上層の人達のおかげで、僕達が首の皮を繋いでるのは事実。
少なくとも、放送禁止用語はやめなよ」
「×××に×××と言って何が悪いんだか。
お前も×××××らに肩を貸すのかよ……」
モララーは溜め息をつく。
「こんな会話を交してる時点で、僕達はよっぽどオカシイよ。
……頭の螺が緩んでしまったのかな」
「俺はそう思わねぇけど?
何世紀前の人間は ――― 喜怒哀楽……感情ってヤツを、当たり前に表現できたって話だぜ?
何世紀前の人間から見れば……
根の部分から、こんな白黒の世界はオカシイのさ」
- 4 :名無しさん :07/11/04 10:32:45 ID:82NuhS9B
- >3の続き。
これは現代より一、二世紀先の話。
そしてその間に人々から感情が失われた。
しかしそれは徐々にではない、ある時ある事件を切っ掛けに一瞬でだった。
その事件こそが…戦争。
酷い戦争だった。
科学の進歩も助長して敗戦国は大陸ごと地図から消えた。
だが本当に恐ろしいのはそれからだった。
この世界から心、感情…それらのものが消えた。
彼らの国は直接の交戦は無かったが、それは例外ではなかった。
そして今でも失われたそれは戻っていない。
「俺だけなのかな、感情があるのって」
そんなことを呟くとモララーが「俺もだろ」と言わんばかりにこっちを見てきた。
けど正直モララーのことも完全に信用している訳じゃない。
「ごめん…」
けど一応謝っておいた。
正直アンカーを付けるのは被った時だけでいい気が…。
- 5 :名無しさん :07/11/04 15:05:41 ID:IsR6jy6A
- 「あー、謝らなくていいからな。変なこと言ったのはこっちだし」
そういったモララーの目が、大通りにうつる。
傘をさして歩く、大勢の人、人、人。
その顔には『感情』は全く見られない。
傘の色も、黒いこうもり傘か透明なビニール傘のどちらかである。
「まるでロボットか何かだぜ」
そうはき捨てる。
喪服のような真っ黒いスーツがずぶ濡れになるのも、気にもならない。
「そりゃあ感情がないのは便利かもしれねえさ。下らない口論も、大声でみっともなく
泣くのも、何もかもしなくていい」
「でもよ……誰かに何かをしてもらって嬉しかったり、喜んだり、笑ったり……
そんな事、感情がなきゃ出来ないじゃないか」
- 6 :名無しさん :07/11/04 19:07:39 ID:kgoFeaqy
- >>5
「……」
「そうは思うけど。
この世界じゃ、邪魔なものとしか映らないからな…」
若干悲痛が篭った俺の声を聞いて、モララーも寂しそうに目を伏せた。
しばらく二人の間を沈黙が流れた後、腕を引かれる感じがした。
勿論引っ張ったのはモララーで、彼は無表情で告げる。
「早く行こう。次の『仕事』があるんだからな」
「……今日の仕事は終わりじゃなかったのかゴルァ!?」
「モナー上司直々の命令。『護衛』だよ、『護衛』。
上が大切にしていらっしゃる――― オ ヒ メ サ マ のね」
「……使用人に平気で、虐殺厨とか言う女に仕えなきゃいけねぇのかよ…。
まったく何もかも狂ってやがるぜ」
- 7 :名無しさん :07/11/05 09:31:52 ID:llZ0ZhPc
- 彼女の甲高い声を思い出して、俺は一気に不機嫌になる。
彼女の名はシィナ・アフォール。通称しぃ。
この国の頂点に立つ『王』と『王妃』の一人娘。
そして、この国では珍しくなってしまった……俺やモララーと同じように、感情を持つAA。
それだけ言えば聞こえはいいが。
正直、あの女は『最悪』の一言に尽きる。
感情を失う前の王と王妃の、過保護で甘やかした教育のおかげで、彼女はすっかり
わがまま放題のクソガキへと育ってしまった。
姫である自分の権力を鼻にかけた、電波全開の自分中心的な思想。
自分が不利になると、すぐ過保護教育の筆頭だった母……王妃にべったり甘える生意気さ。
それでも、会見とか公の場では、感情を捨てた『姫』の顔を演じる猫かぶり。
……ついでに、極度の甘党で偏食。野菜も肉も魚も、濃く甘く味付けしたものしか食べない。
当然デザートがなきゃ怒る。
でも、どういうわけか太らないんだよな。
……考えただけでイライラする。
彼女の甲高い声は、どうも神経を逆なでする効果があるようで。
- 8 :名無しさん :07/11/05 19:14:12 ID:0ihBZ0Ac
- 深いため息をつく俺。
現在、あの女に関しての良い思い出はない。
あの女の良いところ……あったっけか?
ああ、一つだけあった。
あの豊満な胸は大したものだ、栄養分は全て胸にいってるに違いない。
……何考えてんだよ、俺。
傍から見りゃ、ただのドスケベじゃねぇか……
- 9 :名無しさん :07/11/06 13:43:56 ID:VcJpB2ZC
- そう自分に悪態をつく。我ながら馬鹿馬鹿しいこと考えちまったなあ。
ああそれと。
あいつは何故か、俺があいつの所に行くと何故か異常なほど喜ぶ。
抱っこして! なんて甘えてくるだけならまだいいが、俺の身体に無理やり
抱きついてくる。重いし、邪魔だし、いい迷惑だ。
そして反対に、何故かモララーの事は毛嫌いしてるみたいだ。
あいつはモララーに説教されると逆ギレする。しまいには『お父様やお母様に
言いつけるわよ!』だ。
大人気ない奴だな。王と王妃の親バカっぷりにはほとほと呆れる。
……まあ、王妃の感情が消えちまったおかげで、必殺『お父様やお母様に
言いつけるわよ!』攻撃も、最近は効果が薄れてきた。
いい気味だぜ。あの調子であの傍若無人な性格も直ってくれりゃあいいのに。
「……ギコ。さっきから百面相。何考えてるかばればれだよ」
「え。マジ?」
笑いをこらえながらモララーにそう言われて、はっと我に帰った。
「良いから行くよ。時間がないんだからな」
「……おう。で、どこまであの女を護衛するんだ?」
「さあね。それは本人に聞こうよ」
「けっ。面倒くせぇ」
そう会話を交わしながら、俺達は歩き出す。
多分この世界で唯一、最も安全な場所。
真っ黒に染まったこの街の中でもひときわ目立つ、機械仕掛けの城。
そこへ、俺達は向かう。
- 10 :名無しさん :07/11/06 17:46:39 ID:riykqxwp
- 城の奥深くにある部屋。
その部屋の中で、漆黒のドレスを着た女性が自分のベットにだらしなく横たわっていた。
漆黒のドレスにはスリットがあり、そこから左足が顕わとなっており、王家の紋章である【不死鳥】が刻まれている。
彼女こそがこの国の姫 ――― シィナ・アフォールである。
「シィナ様」
数回のノックがあった後、この城に仕える使用人が入ってきた。
いつもはノックがあった場合でも怒鳴る彼女であるが、今回はそれはなしで静かに上半身を起こす。
無言のまま、使用人にその先の言葉を促す。
「まもなく、貴方様を護衛する二名が到着いたします」
シィナはクスリと微笑んだ。
「そう……準備はもう出来ているわね?」
「はい。モララー様は素直に応じてくださるでしょうが、ギコ様は必ず抵抗するはず。
屈強の兵士達を百人ほど用意させていただきました。使用人も総出で迎えます。
例え、私達が朽ちようとも必ずやり遂げてみせます」
若干、物騒な話である。
……シィナが何かを企んでいるのは明確であった。
- 11 :名無しさん :07/11/06 17:47:03 ID:riykqxwp
- 「クスクス、結構。それじゃあ、確認ね?
モララーは服のどっかに刻めばいいとして、
ギ コ の 【 不 死 鳥 】 を 刻 む 箇 所 を答えなさい」
命じられた使用人は命じられたままに、この日まで何回も詠唱した言葉を告げる。
「左足の脹脛に刻まれたシィナ様の不死鳥の刻印と…
対 称 に な る よ う 、 右 足 の 脹 脛 に 刻 む。
刻印が見えるように、新しいギコ様の黒スーツも用意させております」
- 12 :名無しさん :07/11/06 23:28:45 ID:Ioz7AXu2
- 白と黒しかない色彩の中、
彼女の左足に刻まれた【不死鳥】の刻印だけは、紅の色を帯びていた。
- 13 :名無しさん :07/11/07 21:05:13 ID:tleC7Bk8
- 「分かってるんならいいわ。とっとと『ギコ君』と『クソモララー』を迎えに行きなさい。
それから、誰でも良いから呼んで来て」
「かしこまりました」
うやうやしく礼をし、使用人の男はそそくさと部屋を立ち去る。
「……2人とも、嫌とは言わせないわよ」
妖しく、彼女は笑う。
「何てったって、この私の命令だもの」
ベッドを立ち、軽くドレスの裾のしわを直しながら、彼女は呟く。
自らの、野望を。
「私とあなたたちが、この世界を変えるのだから……」
すると、小さくノックの音が聞こえた。
「お入り!」
シィナの怒声に近い声に促され、先程の人物とは違う使用人が入ってきた。
「シィナ様、お呼びでしょうか」
「私を謁見の間に送りなさい。お父様もお母様も、もう着いてるんでしょう?」
「はい」
「なら、行くわよ!」
スリットが入ったドレスを大きく翻して、彼女はずかずかと歩き出す。
そのしぐさに、王族としての気品は全く見られない。
しかし、感情を持たない使用人は、とやかく言わずに黙ってシィナの後ろについて歩いた。
「……あの2人……どういう反応するかしら。ちょっと楽しみだわ」
- 14 :名無しさん :07/11/07 22:24:24 ID:m6Y5Ie57
- 「「「ようこそ、いらっしゃいました」」」
「すっげぇ……」 「壮観、だね」
重々しい扉が開かれ、目に飛び込んできた光景に、一字一句揃った歓迎の言葉に、
思わず、俺とモララーは感嘆の声を上げた。
城に到着し、一人の使用人に王と王后、そしてアフォ姫がいる謁見の間に案内されるのがいつもの流れだった。
が、今回は兵士が使用人が……おそらく、総出で出迎えだ。
エントランスのみでも馬鹿でかい面積なのだが、上空に伸びる螺旋階段も含め、この城に仕える人々で埋めつくされている。
言っとくが、俺もモララーも王子じゃねぇぞ?
ただの、一般市民だ。
育ちはともかく、高貴な血筋やらには無縁の身。
正直、こんな待遇には面食らう。
「いったい、何だってんだぁ?」
「さぁ………?
あれ、あの使用人……前、僕達を案内してくれた人だよね」
「ん、手に何か持ってるぜ?
紅い模様が描かれた黒服……か?
どうやら、お前に渡そうと思っているらしいぞゴルァ」
- 15 :名無しさん :07/11/08 20:16:09 ID:yv5T7f88
- 「ギコ様、モララー様。シィナ様からの贈り物で御座います」
俺達の考えを見透かしたみたいに、服を持った使用人が俺達の前に立って言った。
「しぃが俺達にぃ!? あの強欲女がどういう風の吹き回しだよ」
「……うん。僕も正直驚いてる」
「客室をお貸しいたします。お召しかえ下さい」
俺達のひそひそ話にシカトを決め込み、機械みたいな淡白な口調で言う使用人。
棒立ちで黙るモララーを尻目に、何気なく俺は差し出された服を持って
広げてみる。
……
「……ぶっ。ギコ、それ……」
「うっせぇ黙れ! ……なんだよこのデザイン」
俺の服を見て噴出したモララーに突っ込みを入れて、俺はまた広げた服を見た。
ちょうど、俺が広げたのは黒服のズボンだったんだが……
ズボンの右の裾の方だけに、深いスリットが入っている。
「これを俺に着ろっつーのかよ。あんのアフォ姫……」
服をくれるって聞いたとき、実は良い奴なんじゃないかってほんの少し思ったが、やっぱ前言撤回。
やっぱりあいつは『最悪』としか言いようがない。
俺はつくづくそう思い知る。
- 16 :名無しさん :07/11/08 22:07:12 ID:I2aMlnWF
- 「それだけではありません」
一人の兵士が服を渡した使用人の隣に躍り出た。
その直後に、俺の横で己の服を捲っていたモララーはある指摘をする。
「……僕の服には紅い刺繍が施されてるけど、ギコのにはないよね?」
「へ?ああ」
モララーは眉を寄せる。
「それに加え、右のスリット……あ」
何かに気付いたらしいモララーは、大袈裟にそっぽを向いた。
う、口笛を吹いている仕草! 滅茶苦茶怪しいぞォ!?
「モララー様……では、こちらに」
使用人がモララーを客室に誘導しようとしている。
モララー、命拾いしたって顔に出てるぞ!?
誘導される直前、モララーは俺の肩に手を起き、
「スタンガンのレベル、上げちゃ駄目だからな!!
××××××とか、×××××しようとか絶対駄目だからな!!」
放送禁止用語って訳でもないが……立場上ヤバげな言葉を口に出してしまうくらいの、
乾いた笑顔を浮かべた。
………俺に発言の間も与えず、その場から去るモララー。
へ?グッドラック?
ハハハハハと棒読みに近い彼の言葉が遠くなっていく…………
あのぉ、一人取り残された俺は凄い嫌な感触を味わっているのですが。
何されるの、俺?
ヘヘへ、見間違いッスよね?
使用人が兵士が俺を取り捕まえようなんて、ねぇ?
- 17 :名無しさん :07/11/08 23:22:16 ID:fk56PrJ9
- 「私達の無礼をどうかお許しください。
…シィナ様の、絶対的な命令なのです」
- 18 :名無しさん :07/11/09 14:27:28 ID:BgIoz7do
- 「あ」
謁見の間に移動する途中、シィナは突如声を上げ立ち止まった。
自分の足の【不死鳥】の刻印に触れる。
全体に広がる紅。
「よく考えてみれば、ふくらはぎだけじゃなくて
……足全体なのよねぇ」
姫らしからぬ下品な笑い。
背後にいた使用人にすぐさま告げる。
「変更よ。
足 全 体 に なさ い 」
- 19 :名無しさん :07/11/09 20:28:48 ID:Fl9M1+nr
- 「あいつの命令? ふざけんなゴルァ! 何がおかしくてこんなセンスおかしい服
着なきゃいけねぇんだ……むぐ!」
怒鳴ろうとした俺の口を、何かが思い切りふさいだ。
それと同時に、俺の後ろに立っていた使用人が、俺の身体を羽交い絞めにする。
「……貴方が抵抗した場合による、シィナ様よりのご命令です」
「ご命令ご命令、って……う……」
叫びながら、俺の身体を羽交い絞めしてる使用人を振り払おうとした途端。
突然、俺の視界がぐらりと揺らいだ。
息が出来ない。
嫌なにおいがする。
気が、遠くなっていく。
(……睡眠薬!?)
どこまでも悪趣味なオヒメサマだ。こんなの冗談じゃない。
逃げようとするが、身体が全く動かない。
猛烈な眠気が襲ってくる。
「どうか、お許しを。ギコ・ハニャー……」
意識が、闇へと堕ちて行く。
使用人の台詞の最後の方は、聞き取れなかった。
- 20 :名無しさん :07/11/10 23:19:11 ID:TxiXp4U5
- 気付けば暗闇の中だった。
俺は理解する。
これは俺の『夢』の中だ。寝た時に見る『夢』。
薬をかがされた俺は、まんまと眠りについちまった。
………無茶苦茶だぜ!あの野郎、何考えてやがる…!
悪態をつき、起きたらどう仕返しをしようか考えようとした時、
………怒りの矛先を当てるべき相手が俺の前に現れやがった。
漆黒のドレス。 スリットの合間から見える左足に刻まれた【不死鳥】の刻印。
そして、唯一良いところだと認めた豊満な胸。
――― シィナ・アフォール。
目の前に現れたのがあのアフォ姫だと理解した途端、俺は胸ぐらを掴んだ。
夢だろうが何だろうが……説教せずにはいられねぇ。
「シィナ……俺に睡眠薬とはどういうこったァ?
てめぇに付き合って、ロクなことなんてねぇ!!」
………………。
…………………?
いつものパターンならば、シィナは泣くはずだ。
年相応ではない、「びえ〜ん」という幼稚な嘘泣き。
ところがどうだ? 彼女はきょとんとするばかり………シィナじゃ、ない?
「おぬしが何者かは知らぬが……
いきなり、このような仕打ちは無礼ではないかの?」
- 21 :名無しさん :07/11/11 08:29:04 ID:A/uiIZo/
- シィナは、【シィナの顔をしたそいつ】は、
古風な口調でさらりとそう言った。涼しい顔だった。
俺は腹の心底から違和感を感じた。
この目の前の女が、シィナではない。それもあるが、まったく別のところで…何かが、違うような。
彼女は俺の顔を見て、クックックと笑う。
その笑いを見て確信した。そんな笑み、シィナは浮かべない。
コイツは明らかにシィナではない。
俺はとりあえず、胸倉から手を放す。
「お前、誰だ?俺の『夢』の中で何してやがる」
心の奥底で、自分の言った言葉に矛盾を感じながらも、俺は静かに言う。
これは夢なのだ。夢なのだから、何が現れようと自然なことである。
しかし、理性ではない本能が俺に伝えている。
コイツ ハ ソトカラ ハイッテキタ エタイ ノ シレナイ モノ 、 なのだと。
「お前は礼儀を知らぬ奴じゃな。まず、自分から名を名のるものじゃろう?
――― 妾に、おぬしの名を教えよ」
………。
心なしか、彼女のペースに巻き込まれているような気がする。
逆らえ、ない……
- 22 :名無しさん :07/11/11 20:57:13 ID:fqXtlVM5
- 「……ギコ。ギコ・ハニャーン」
「なるほど、良いじゃろう。しかしいきなり人の胸倉を掴むとは……お主は礼儀が
なっとらんのお」
嫌みったらしい笑顔を浮かべて、そいつは言う。
「知るかゴルァ! お前そっくりのアフォ姫が悪いんだよ!」
「騒々しいのう。お主はただ無神経に怒鳴るしか能が無いのかえ?」
「てっめぇ……」
ぎりぎりと歯軋りしながら、俺はそいつを睨みつける。こいつ、何でこんなに偉そうなんだ!?
って、こんな所で下らん痴話喧嘩してる場合じゃねぇ。とっととこの悪夢から出ないと!
「この『悪夢』から出して欲しい。そんなところじゃな」
「!?」
俺の考えを読んだみたいに、そいつは嫌みったらしい笑みを浮かべながら言った。
「どうして……」
「良いじゃろう、出して進ぜる。そして……妾の名、しかと聞くが良い」
俺の台詞を遮ってそう言い切り、そいつは俺の側に歩み寄った。
しぃのような下品な大股歩きじゃなく、静かに、上品に……ゆっくりと。
「我が名は『レイズ』。感情と再生を司りし『不死鳥』なり!」
そう、高らかにそいつが叫んだ瞬間。
辺りが、真っ赤な炎に満ちた。
「我が『翼』の片割れよ。この世に、再び感情の再生を……」
完全に意識が途切れる寸前。
あいつの……レイズの声が、聞こえた。
- 23 :名無しさん :07/11/11 22:20:34 ID:uZohUER+
- 「……コ君………ギコくーん」
「ぐぅ」
乱暴にネクタイを引っ張られる感触がする。
俺の全身に重石のように乗っている奴がいる。
………目を開けたくない。
こんなことする奴、俺の知り合いの中で一人しかいねぇ。
いつ聞いても、お前の甲高い声は癪に触るんだよ。
俺は目を開けるとすぐに、今度こそ叱るべき相手の胸ぐらをつかんだ。
右足に不自然な熱さを感じながら。
- 24 :名無しさん :07/11/13 21:17:32 ID:F3hO5UZV
- 「てっめえ……しぃ!!」
「いやん怒っちゃ嫌〜」
勢いよく起き上がって、アフォ姫の胸倉を掴み、この上なく不愉快だが……
顔に思い切り顔を近づけて、大声で怒鳴ってやる。
それに対して、そいつは身をくねらせながら例のぶりっ子全開の猫なで声で返す。
反省の色は全く無い。
というか、こいつが『反省』という言葉を知っているのかどうかも怪しい。
ああ、腹立たしい。
「黙れゴルァ!! テメーが変な手ぇ回すから俺はこんな目に逢ったんだろうが!」
- 25 :名無しさん :07/11/14 19:47:01 ID:yXy2CVqP
- 「こんな目って、どんな目ぇ〜?」
……コイツ、わかってて言ってやがるな。
追求するのも馬鹿馬鹿しくなってきた。
毎度毎度、こんなやりとりでは此方の身が持たない。
- 26 :名無しさん :07/11/18 07:38:59 ID:a4A+qzum
- これは罰だ。
今日はこれくらいで済ましてやる…ゴルァ!
「くらいなぁ!!」
バシーン!
「ひゃあ!いったーい!」
俺が指を弾いて出来た、姫の広いでこの赤い一点。
「ひっひっひっ、デコピンだぜぇ?
お前がどれだけちやほやされようがな?
俺はお前のこと、姫様だなんて認めねーからな」
- 27 :名無しさん :07/11/18 13:32:17 ID:DketEbeG
- 俺にニヤニヤされながらそういわれたしぃは、しばらくぽかーんと突っ立っていたが、やがて。
「……ひっどおーい! お父様とお母様に、ギコくんがいじめたーって言いつけて
やるんだからっ!」
そう、早口でぺらぺらとまくしたてる。
こいつの甲高い声は頭に響くから大嫌いだ。
聞いてるだけでイライラする。
「おーおー出来るもんならやってみろゴルァ! 言ったとしても今の陛下たちじゃあ
聞いてくれねぇのがオチ……痛ぇ!」
負けじと言い返してベッドから降りようとした時、俺の右足に鈍い痛みが走る。
思わず俺はうずくまる。
「ギコくーんだいじょーぶー? しぃちゃんが手厚い看病してあげるよ〜」
「いるかゴルァ!」
さっきまで頬膨らませてぎゃーぎゃーわめいてたくせに、これだ。調子の良い奴め。
そもそも自分のことをちゃん付けで呼ぶ辺り、激しくおかしい。
すると、俺に無理やり飛びついてきたしぃが、俺の右足を見るなり、言ったんだ。
「あっれー? ギコ君ってば、いつの間に「いめちぇん」したわけー?」
- 28 :名無しさん :07/11/18 23:55:33 ID:kfvFK6SC
- 「イメチェン?馬鹿言え。
やけに右足が熱かったり、スースーしたり、いったい全体何だって……」
目の前にポツンと置かれた鏡。
それに映る俺の姿。
………………………。
「ええええええええぇぇぇぇ!!??」
- 29 :名無しさん :07/11/19 20:29:15 ID:ARVx2Etk
- 思わず俺は叫んでいた。
だって、これが叫ばずにいられようか。
いつの間にか、あの深いスリットが入った服に着替えさせられていた俺の脚には。
何と、しぃと対になる右足に、しぃそっくりの『不死鳥』の刺青があったんだから!
それも一箇所だけにじゃなく、尻の付け根からつま先まで、足と呼べる場所全体に。
そっくりっつーか、あいつのは赤で俺は青だけどな。
まあ、この俺が気に入るわけがないがな。
「きゃーんギコ君かっこいー! しぃちゃんとペアルック似合ってる〜」
いきなり俺に頬擦りしながら、甲高い黄色い声で言うアフォ姫。冗談じゃない!
「ふざけんなゴルァ!! 何だって俺がこいつなんかと同じ刺青なんか……」
しぃを押しのけながら叫ぶしかない俺に。
またまた、不愉快な声が飛び込んできたんだ。
「知りたいモナ?」
- 30 :名無しさん :07/11/20 23:31:13 ID:t3jD44f2
- 扉の先にいたのは、『姿は』俺やモララーよりも二、三歳年上の男。
コイツも常時服の黒スーツを来ている訳だが、襟に緑のブローチを取り付けている。
単刀直入に言おう。
「何の用だ、××××上司。
今日はもう会いたくなかったんだがな」
「………ご挨拶モナね。
上司にそのような言葉を投げつけるとは……
どこをどう間違れば、そうなってしまうのか。
モララーは素直に育ったというのに、本当に不思議だよ」
「一度、自分の胸に手を当ててよく考えてみりゃあ良い。
……義父上様よォ」
俺達は【訳あり】だからこんな会話となる。
この男の名は、モナー。
一応は、俺とモララーの上司兼育ての親。
身体年齢こそあれだが、精神年齢、歩んできた人生の長さは俺達の二倍はいっている。
- 31 :名無しさん :07/11/22 00:39:50 ID:sME34+5O
- 「運命共同体だモナ」
そういってモナーは ふ と薄く笑った
──ような気がした。
あくまで「ような気がした」だ。なぜそう思ったかは判らない。
多分、錯覚だろう。
で、
『運命共同体』?何の話だ?
突然目の前のこのアフォの爆発女に城に呼びつけられて、
クロロフォルム嗅がされ昏倒させられ、
御本人の了承も無く勝手に人の体に取り返しの付かないアート施しやがって!
挙げ句の果てに『運命共同体』だ?
脳味噌沸いてんのか、ゴルァ……。
俺は粘っこくてどす黒いタール状の何かが身の内から沸き上がってくるのを感じた。
今すぐこの場で二人を張り倒したい気持ちと、その黒い感情を抑制する意思と、
訳知り顔のこいつらに色々問い詰めたい考えとが俺の中で鬩ぎ合っていた。
こちらの反応を楽しむかのように少し長目の間を置いてからモナーはゆっくりと口を開いた。
「今はそうとだけ説明しておくモナ」
俺は納得していないぞ、モナー。
洗いざらい吐いて……
「……夕食と寝室の用意をしておいた。今夜はここに泊まるといいモナ」
……狸がッ。
先手を打たれてしまった俺は場の空気に流されるように部屋を追い出された。
- 32 :名無しさん :07/11/23 01:09:52 ID:YG+qUhSP
- 居室には王女シィナとその従者にして傅育官であるモナーだけが残された。
部屋には先刻ギコが発した怒気が石炭を燃やした後の熱気の如く、
長く余韻を残して残留しているかのように思われた。
「ギコ君は……」
ぽつりと口を開いたのは姫。
従者は顔をそちらへ向けて次の言葉を待った。
「私のことを怨むでしょうね」
従者は主の更なる言葉を待つべく押し黙っている。
「非道い話だけど、こんな仕打ちは今回限りじゃない。これからも二人を酷い目に遭わせるわ。
許してもらえるなんて思わないし、とても思えない。でも……」
主君の告解はそこで途切れた。
今、従者の目の前にいる姫君の表情からは我が儘で愚昧な様子は覗えなかった。
むしろ品性と知性すら漂わせている。
ただ、公の場でそうしているような演技ではけしてなさそうであった。
従者はそっと歩み寄り姫の正面に傅いた。
彫刻家が石の癖を読みつつが刃を入れるかの如き慎重さで言葉を挟んだ。
「幾度と申し上げましたが貴女様のみの業ではございませぬ」
一呼吸置いて従者は鎚を一振りするようにもう一言挟んだ。
「私も共に背負う。あの時そう誓ったではございませぬか」
主は黙っている。今度は先程とは逆の立場だ。従者は更に続ける。
「二人には手順を踏みながら折を見て話をしていきたいと存じます」
従者は静かに立ち上がると部屋の後片付けを始めた。
ギコが横たわっていた寝台のシーツの皺を整える等のそれら一連の作業を
慣れた所作を以て数分で終わらせた。
「それではお休みなされませ」
従者は暇乞いをすると扉に近寄り把手に手をかけ退室した。
- 33 :名無しさん :07/11/23 09:18:59 ID:89s9+Yk1
- 「ギコ、まだ怒ってるの?」
「………今は怒りよりか、呆れてるぜ」
各自で夕食を終えた後、ギコは僕が使わせてもらっている部屋に入ってきた。
先程、見殺しにしてきたので「薄情」の一言でも飛んでくるかと思ったけれども、
僕の首に刻まれた、黄色い【不死鳥】が見えたのだろう……咎めはしない。
僕の衣服の右腕には黄色の【不死鳥】の刺繍が施されている。
僕としてはここでSTOPをかけてもらいたかった。
衣服なら未しも、体に刻まれたら。もう後戻りは出来ない気がしたから。
それをさせなかった上司、義父のモナー。
『私の身は【不死鳥】を刻むことを許してくれない。
私には許されぬ刻印を……息子達が体に刻むことは、何よりも嬉しい』
NOとは言えなかった。
………ここまで育てて下さった義父親に恩を返すというよりかは、もはや脅しだった。
ギコが羨ましいよ。何者に対しても自分の意思を言える。
自分の意思を言葉に紡げない僕はまた心に、決して心地好くないモノを蓄積させる。
「モララー、大丈夫か?」
「…………。
大丈夫、何でもないよ」
- 34 :名無しさん :07/11/23 11:56:38 ID:PGIlHF0s
- 「そうか? 俺には何でもなくないように見えるけどな」
「……!」
はっと僕は息をのむ。
やっぱりギコに嘘はつけない。
僕と同じように『感情』を持つ彼に、隠し事は出来はしない。
その瞳は、いつだって真実を映してるから。
……それは。
僕やギコ、それにしぃ姫を『育てた』あの人も、そうだけれど。
「……俺たち『4人』」
小さく、ギコが呟く。
彼の言葉を聞いているのは、僕と……
多分この世界で一番安全な場所だと思われる、機械仕掛けのこの城だけ。
「なんで、感情なんか持っちまってるんだろうなあ」
- 35 :名無しさん :07/11/23 18:47:54 ID:3AOykyRA
- たまに、
本当に感情というものが邪魔に感じる時がある。
感情が失われてしまったこの世界では、異の存在であるのはこちらなのだ。
- 36 :名無しさん :07/11/24 10:22:48 ID:GKMmukXq
- 「モナだって不思議モナよ」
自分の雪のように白い肌は、『不死鳥』を刻まれるのを拒む。
生まれながら、自分は『不死鳥』に嫌われている身。
今この部屋に、姫はいない。
彼女は先程、迎えの使用人と共に、夕食の為に両親が控える王室の者専用の
大広間に行ってしまった。
「何で、あんなこと言ったモナかねぇ……」
義理の息子の1人、モララーに。
さっき、自分は何と言った?
「……何よりも『嬉しい』……」
紛れもなく、正の感情。
そんなもの、捨てたはずじゃないか。
自分も、とうの昔に。
「どうして……モナは、あんな事を……」
答える者は、いない。
- 37 :名無しさん :07/11/24 14:22:21 ID:V/P2WPAs
- 仮面を貼り付けたように、──否、
拭き去ったか削り取ったかのように表情の無い男女が食卓を挟んで少女の目の前にいる。
二人は言葉を発することもなく、けして豪華とも言えないが粗食とも言えないが、
栄養のバランスだけはきっちりと計算し尽くされた料理を口に運んで咀嚼していた。
この人達にはもう『感情』は戻ってこないのだろうか?
少女は食事の手を止めて物思いに耽った。
二世紀前から一世紀前辺りにかけて長らく続いた大戦で多くの人々は
『感情』を失ったわけであるが、全ての人がそうというわけでもなく
ギコやモララーのような例外も本当に少数だが存在した。
少女の両親もその「例外」であった。
かつては。
その「例外」の大半も世界の大きな圧力に屈するかのように
大きな流れに押し流されるかのように『感情』を喪失、
或いは自ら捨て去っていった。
少女は両親が好きであった。
いつも付き従ってくれるモナーのことも同じように好きであった。
その三人は何があっても自分と心と時間を共有してくれたから。
今はモナーだけしかいない。
ギコとモララーも『感情』を持ってはいるけど──。
だめ。
入れ込みすぎちゃいけないし、二人にも自分の領域に踏み込ませるわけにはいかない。
互いに辛くなるのは目に見えている。
そして少女は思う。
こんな葛藤は自分だけで十分だ、と。
- 38 :名無しさん :07/11/24 20:00:38 ID:6QOm85bW
- 「シィナ。食が進んでないようだが、どうかしたのかい?」
「な……なんでもありませんわ、お父様」
食事の手を止めていた少女、シィナは父親の言葉で我へと帰る。
感情が消え去っている今、心配というものがある訳がなく、ただ形式上に告げる言葉と成り果ててしまった。
こんな食卓など楽しくない。早めに食事を済ませてしまおう。
食事を済ましたら、さっさと自分の部屋に戻ろう。
今日はなおさらそう思った。
目の前にあるスープの器にスプーンを運ばなくては。
スープの水面に自分の顔が映る。……なんて情けない顔をしているんだ。
駄目だよ、私。甘い考えを持つな!
「しっかりなさい、シィナ!しぃ!
あの二人を必要以上に巻き込んでは駄目、駄目なの!
辛いのは私だけで充分!
私の痛みを彼らにも与えるなんて、嫌……!」
「もう後戻りできない所まで来てることがわからぬのか、のう?
シィナ・アフォール ――― この愚か者め」
ほんの一瞬。瞬きする間もないその時。
スプーンではなくキセルを持ち、シィナと同じ容姿を持った者がその水面に映った。
いきなり言葉を捲くし立てた後、席から立ち上がり泣き崩れる彼女がその者の存在に気づいたのか。
その者の憤りに近い言葉が届いたのかは、定かではない。
- 39 :名無しさん :07/11/24 23:40:25 ID:cLNzN3QH
-
不条理な世の中よ、私は貴様が大嫌いだ。
- 40 :名無しが死んでも代わりはいるもの :07/11/25 14:49:10 ID:rJgR26kH
- 無意味な運命よ、私は貴様が大嫌いだ。
無慈悲な真実よ、私は貴様が大嫌いだ。
不可能な夢よ、私は貴様が大嫌いだ。
何も生まぬ絶望よ、私は貴様を滅ぼそう。
その手に夢を抱き、その手に破滅を抱くがいい。
その手に愛を抱き、その手に哀を抱くがいい。
その手に命を抱き、その手に死を抱くがいい。
その手に希望を抱き、その手に絶望を抱くがいい。
- 41 :名無しさん :07/11/25 15:31:51 ID:obHkc2zu
- >>38
しばらくの間、シィナは椅子の傍らにうずくまっていた。
精神的な繋がりを失くし、血縁上と法律の概念による親子関係でしかなくなった
目の前の男女は不思議そうな目でシィナを見つめている。
やがてシィナは意を決したようにゆらりと立ち上がり椅子に腰を下ろした。
自分専用に濃いめに味付けされた料理が目前に有る。
父と母に供されている料理には申し訳程度の薄い味付けしかついてないが、
彼らはそれを美味しいだとか不味いだとか思うことなく、
ただ甘いだの辛いだの酸っぱい、しょっぱいとしか感じないだろう。
五感の中の一つとして味覚が備わっているだけで、
それに対して評価を下すセンスや感動する神経なんて今や持ち合わせてないのである。
必要以下でもない、以上でもない、過不足のない栄養さえ摂取できればいい。
濃い味付けだの薄い味付けだのそのようなものは無意味なのだ。
これは抵抗、私なりの。
世界がその存在を無駄と断じて淘汰したものを自分が、
いや、自分たちが甦らせてみせる。
そしてお父様とお母様を元に戻してみせる。
翌朝、シィナは食卓でモナーと共にギコとモララーを迎えた。
その目にはいつも通りの愚妹で我が儘な暗君の光を宿らせて、
その表情におよそ他者から疎まれる要素を全て詰め込んだような醜いニュアンスを忍ばせて。
顔を合わせた途端にギコの纏う雰囲気が冷たい波長のものに変わる。
モララーの眼光が鉛色に濁る。
鉄の杭による一撃を受けたかのような痛みがじわりと胸に拡がっていく。
怖ろしい獣が自分の心臓を鷲掴みにし爪を食い込ませ、
少しずつ力を籠めて締め付けているかのような気がした。
シィナは自らの内に持ち合わせた醜さを結集させて拵えた仮面でそれを覆い隠した。
「──おはよう、『ギコ君』。それから『クソモララー』」
- 42 :名無しさん :07/11/25 17:00:14 ID:aUVNGkmK
-
「――― お前なぁ。
使用人になんつー味を要求してんだ。
味見する方の身も考えてみろっつーの」
「だってー、私濃い味付けが好きなんだもん!」
「ハハハ。ギコ、その料理はこの汁物につけて食べるんだよ」
「ん?そうなのか、モララー?ふむふむ………お!美味い!」
「えっへん!どんなもんよ!」
「てめぇが威張ることじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
「お言葉ですが、僕もギコと同意見です。
何よりもこんなに濃い味付けなものばかり食べては、貴女は」
「あんたの意見なんて聞いてないわ。黙りなさいな」
「………………」
「きゃあ!痛い!何するのよ、ギコ君!!」
「こりゃあ失礼したぜ。てっきり蝿を叩いたとばかり」
「ひっどーい!!!」
「ま、まあまあ。僕は気にしてないから…。
シィナ姫も飛んだご無礼申し訳ありませんでした」
「……わかれば良いわ」
- 43 :名無しさん :07/11/25 17:23:05 ID:CXgllfju
- モララーに『上から目線』でそう言い捨てたしぃは、再びありえないほど甘ったるい味付けが施された
料理に手を付け始めた。俺たちも再び料理を口に運び出す。
この世界では常識と化した、会話のない食卓。
沈黙に耐えられないけど、あの姫がいるこの場を騒がしくするのはどうも気が引ける。
だから、俺は隣に座るモララーにこっそり耳打ちした。
「甘いもんばっか食って、しかも運動なんかしてるように見えねぇくせに、どういう訳か
太らないんだよなあ。あいつ」
「はは、そうだね。もし感情があるなら、世界中の女の子が羨ましがるに違いないなあ」
「体型だけ、な」
苦笑いしながら小声で答えるモララーに、俺はそう言い返してやった。そりゃあもう、心の底から。
「外見はともかく、あのアフォ姫の内面に憧れる女は絶対いないと断言できるぞゴルァ」
「ギコ、それははっきり言い過ぎ……まあ事実だけどね」
「あんた達。聞こえてるわよ?」
勢い良くナイフとフォークをテーブルに叩きつけ、すこぶる不機嫌そうにしぃが言った。
「だったら何だっつーの。陛下たちはもう助けてくれないぜ?」
「ぶーっ、何よその言い方〜! ギコくんサイテー!」
「はいはい、食事中に騒がない」
俺たちの痴話喧嘩を遮ったのは、使用人の一言だった。
「皆様。お食事が済みましたら謁見の間へお願いします。準備が整いましたので」
- 44 :名無しさん :07/11/25 22:04:35 ID:nbyqHTcF
- 「丁度良いタイミングじゃねぇか。モララー、行こうぜ」
「そうだね。僕達も僕達なりに準備しないと」
そこそこ腹を満たし、俺達は席を外す。
しぃは生憎食後のデザートを頬張っており、まだ立てない様子。
「それでは、僕達は先に行っています」
俺が扉のノブに触れかけた時、モララーは、
俺達とは離れて食事を取っていたモナーに律儀に礼をしてそう言った。
モナーは丁寧に口元を拭くと、モララーに細長いケースを握らせる。
再び軽く礼をした後、俺達は部屋から出ていった………
食卓の席に二人だけが残された。
ギコとモララーが出ていく寸前まで、仮面をかぶっていた少女は口を開く。
「モララーに、何を渡したの?」
襟の碧のブローチに触れながら、彼は困ったような表情を浮かべる。
「知らない方が幸せということもある……そうとだけ言っておきます。
――― あの二人は複雑な環境の中で過ごしているのですよ」
「―――『注射器』って……お前、大丈夫かよ」
「大袈裟だよ、ギコ。
『仕事』を初めてから、僕の身体にはこれが必要だってことは承知のはずでしょ?」
- 45 :名無しさん :07/11/26 17:17:22 ID:3sIKbyWL
- 「まあ……そりゃ、分かってるけどよ」
「ね? 僕は大丈夫。もう慣れたからさ」
俺に笑いかけながら、モララーはスーツの袖を腕まくりした。黄色い肌があらわになった
腕には、何本もの針の痕が痛々しく残っている。
「むしろ……この注射器がなくっちゃ、僕は『大丈夫』じゃなくなっちゃったからね」
そう言って、モララーは慣れた手つきで注射器を手に取り、迷う事無く腕に突き刺した。
いつも見てるが、正直言って慣れない。と言うか、見てるほうが痛い。
- 46 :名無しさん :07/11/26 18:38:00 ID:YFmx9S5d
- 「――― この注射を打たなければ、僕は一撃をふりかざすことさえ出来ない……
戦いを必要とする『仕事』についてるっていうのに、
戦えなくなるっておかしな話だよね」
薬の注入が終わり、注射器をケースにしまい懐に入れる。
捲り上げたものを元に戻し、痛々しいそれらはまたスーツの下へと隠れていった。
「……それが普通なんだろうよ。
――― 暴力を嫌い、血を流すのを嫌う。
俺なんかより、モララーはよっぽど人が出来てるぜ」
- 47 :名無しさん :07/11/29 23:42:25 ID:PkPPke8A
- 「ギコ……そんなことない」
首を横に振ることで否定を示すモララーの横を、
「あるさ」
音もなく、右足の【不死鳥】を露にした青年は通り過ぎる。
- 48 :名無しさん :07/12/01 10:28:13 ID:GdcLMh+u
- 「あー足がスースーして気持ち悪……」
不機嫌そうにそう独り言を言いながら立ち去るギコを、僕はただ黙って見送るしか
出来なかった。
呼び止めることは可能だったけど、そんなの出来るわけない。
例え出来たとしても、何かを言うことは出来なかっただろうから。
「……そんな事、ない」
無意識に、喉の奥から言葉が漏れた。
こんな事、ギコには絶対言えない。勿論、しぃ姫やモナー上司にも。
「僕は弱いんだ。だから、あの時だって……」
- 49 :名無しさん :07/12/01 12:23:37 ID:8Lh3AdGe
- その後の言葉は紡がれない。
言わずに心に秘めることが、最善の策なのだと彼は考えているのだから。
- 50 :名無しさん :07/12/01 23:12:10 ID:qU927H9t
- 今日の『仕事』が開始する。心を切り替えよう。
押し寄せてくる苦い過去に蓋をした。
すっかり遠くとなってしまったギコの背中を、モララーは慌てて追いかける。
- 51 :名無しさん :07/12/02 18:44:21 ID:JiCfm5aE
- 「待ってよ、ギコ」
咄嗟に、笑顔を顔に貼り付けた。
これ以上、ギコに心配はかけられない。
……
全部、僕が悪いんだよ。
弱かった、僕が。
『嫌だ!! 死ぬな!! ……嫌だあああああっ!!!』
ごめんなさい。
許してください。
僕は、君を救えなかった。
- 52 :名無しさん :07/12/02 20:28:40 ID:0Z5gh7qT
- 両眼を見開いた僕の手を握って、そんな悲痛な声で叫ばないで?
大丈夫だよ、死なないよ?
口から血が出ていて、腹に穴を開けて……説得力ないけど……死なないから。
僕も後から合流するよ?地を這ってでも君の下へ向かうよ?
ほら、早く逃げて。
後ろに、僕を仕留めて、君に狙いを定める奴がいるんだ。
なんで………声が出ない?
これじゃあ、最後の嘘も伝わらない。
お願い、逃げて。
あっ。
………『僕』は体験してない出来事の筈。
けれども、何故これほどの罪悪感を抱いてるのだろう。
よくファンタジー作品で、前世の記憶を受け継ぐとかあるけれども、そんな現実味がないのは僕は信じない。
それとも……自分が気付いてないだけで、精神が病んでいて……
有り得ない被害妄想を持っているのだろうか。
- 53 :名無しさん :07/12/03 23:08:51 ID:qlm2ThLO
- でも、
- 54 :名無しさん :07/12/04 22:42:54 ID:YNWkdA3s
- きっとそうだ。こんな記憶は僕の中に存在しない。
なんだろう?
百年前まで続いてた大戦の記憶?
人々が『感情』を失う──いや、捨ててしまう以前の世界の記憶?
いつもそうだ。
この城の中に入ると幻覚じみた白昼夢を見てしまうことが多い。
今見た記憶もまたそうなのだろうか?
時々、僕は自分の中に存在しない記憶を想起することがある。
僕が昔から持ってる第六感に起因するもの。
主に古代遺跡や古戦場といった史跡がある場所に足を踏み入れた時に見ることが多い。
なんていったらいいのかな。
その場所でかつて生きていた人達の想いが僕の中に入ってくる感じ。
残留思念というやつなんだろうか。
うっすらとだけど僕はそれを感じ取れることがある。
もっとも感じ取れると思っているのは実は僕の思い込み、妄想で
実際は「残留思念」も「第六感」も存在しないものかもしれない。
でもどういうわけか、その「白昼夢」は人の想いが強く遺っていそうな場所でよく見る。
僕達が生まれるよりも昔、この城と城下の街は戦渦に巻き込まれたことがあったそうだし。
さっき僕が見たような凄惨な場面もあったことだろう。
僕はギコの後ろを歩きながらこの国の歴史に思いを馳せていた。
するとそんな僕から無意識の内に発せられていた不安定な気配に感付いたのか、
ギコが首を此方に向け怪訝な表情で僕に声をかけてきた。
僕は大丈夫だと応えると、それきり妄想を打ち切り頭の中から締め出しにかかった。
謁見の間で待っているのは果たしてなんだろうか。
- 55 :名無しさん :07/12/05 13:52:19 ID:OknFpyEu
- 腹を満たしたしぃが謁見の間に来たのは、
俺達が『準備』を終え、すでに壇上にいらっしゃった王と王后に挨拶を交わした後のことだった。
毎度のことながら、壇上に上がる様は姫らしくない……つーか、女じゃない。
開口。正直、どうでもいいことをグダグダと語り始めるのも通例。
けれども、壇上を境にして上に立つしぃと、下で膝まずく俺達を見れば、身分の差は歴然である。
モナーは壇上の横で膝まずいていた。
時折、襟の碧のブローチに触れるが、表情を崩すことはない。
元の顔が元の顔なので、うっすらと微笑んでいる。
……壇上の王と王后は、しぃの話の、事あるごとに相槌を打つ。
それは愛しい愛娘の話だから打つようなものではなく、元々インプロットされたかのような機械的行動にしか見えない。
それで、満足なのだろうか。
しぃは笑顔で話し続ける。
……………………。
こういった差も歴然だった。
- 56 :名無しさん :07/12/05 15:19:50 ID:pLD/phYH
- 姫様は漸く気が済んだようで、いよいよ本題に入る。
横にいるモララーが発言する。
「ここに参る以前、僕達の仕事は『護衛』と聞きました。
どちらへ?」
俺は正直、期待してない。……『準備』をするのは、もう職業柄であって。
今までもこのアフォ姫を護衛したことがあるが、全部彼女の私利私欲に振り回された。
前回は『有名店のアイスクリームを食べたい!』という理由で、呼び出されたこともある。
……よく投げ出さなかった俺を褒めてくれ。
「おい。さっさと何所に行くか、言いやがれ」
だからこそ、しぃがあの場所の名を出すとは、あの場所へ向かおうとは思ってもみなかった。
「――― 国の国境線。いいえ、国の枠組みに面している【塔】に行きたいの。
行った事ないから行ってみたいなぁ〜って!」
「 「!?」 」
戦慄が走るどころの話ではなかった。
モナーは分かっているような顔をして少しも動じず、モララーはそこで止まっていたが。
俺は常識も正気も全て通り越して、乾いた笑いを、
狂う、くるう、クルウ。 ハ ハ ハ ハ ハ 。
ヒ ト ガ デ キ テ ナ イ 俺 ニ 、 御 似 合 イ ノ 場 所 ジ ャ ネ ェ カ ! !
- 57 :名無しさん :07/12/05 19:49:15 ID:dzNgFRh6
- 俺の隣で跪くモララーが唖然としているのが、何となく分かった。
でも、俺は止まらない。
ああ、訳が分からない。
ぐちゃぐちゃの頭の中に、あの禍々しい塔ははっきりと映像として映った。
……【塔】。
俺たちが暮らしているこの国の国境線沿いには、【不可視の壁】が張られている。
それはその名の通り、目には見えない、触れた者には何者であれ例外なく死を与える巨大な壁。
そして【塔】の最上階には、【不可視の壁】を出現させている大げさな機械がある。
あんなもんに、あのアフォ姫は一体何の用だ?
狂う脳内で、小さくて大きな疑問が生まれた。
- 58 :名無しさん :07/12/06 14:43:14 ID:zJkeMThO
- 俺がそう思った時にモララーは代弁してくれる。
「何故!何故、【塔】に向かうと言うのです!」
珍しいことに、モララーは動揺を隠せずに発言している。
それは仕方ない。当然の反応だ。 モララーは知っている、どれほど危険なのか知っている。
「聞いてなかったの?………クソモララー。
『行ったことがないから行きたい』って言ってるでしょ」
「一国の姫ならば、危険性は充分承知のはずでしょう!
それとも、何ですか!! 貴女はそこまで世間知らずなのですか!!」
「モララー!口が過ぎているぞ!」
「……ッ!」
モナーの叱責が跳んできた。自分の上司、ましてや義父親に言われてしまえば、黙るしかない。
これでも慎重に言葉を選んでいたのにな?
人が出来ているモララーはそれでもなお何か言いたい様子であった。
俺は彼の肩に手を置く。表では彼を励ますような素振りに見えるだろう…でも、今の俺にはそんな気は全くない。
「――― いいじゃねぇか、モララー。好きにさせりゃあいい。
俺だって気になってはいるさ。余程の馬鹿じゃない限り、あの【塔】に向かう奴なんていない。
けど……モナーの様子を見る限り、何かあるんだろう。俺達には言えない何かが。
言いたくないなら、俺はそこまで追求しないぜ? 只でさえ面倒な立場だっていうのに、これ以上ややこしくはしたくねぇし。
だが、言っとくぜ? ……俺のこの身に変えても、 命 は守ってやる。これが俺の仕事だしな。
けれども、 俺 は 【 保 障 】 し ね ぇ 。
何の【保障】かは自分で考えな。 解からなくても別にいい、かまいやしねぇよ。
ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!」
- 59 :名無しさん :07/12/07 00:53:03 ID:Pq+k00tP
- ――― 何……? 何なの?
私が見下ろしている彼は薄くにやりと笑って、こちらを見上げていた。
只のにやりではない。笑いながらも、鋭く私を見る眼は紅く染まっている。
いつもの彼ならば、例え邪険であろうと、こんな笑いはしない。
目が合うと、さらに彼は笑いを濃くした。
【保障】はしない。その言葉を私に植え付けようとしているのか、瞬き一つしない。
目を背けようとするが、呪縛にかかったかのように何一つ動かせない。
……恐怖が沸き上がってくる。
この目の前にいる彼は、確かにギコ君なのに。
私は、こんな彼を知らない。
「ギコ、静まりなさい」
体が恐怖に支配される寸前、横斜め下からモナーの静かな声が聞こえた。
動揺はなく、通常の表情から笑みが消しとんだ表情を浮かべている。
「ヒッヒッヒッ。義父上様よォ……俺はこれでも随分落ち着いてるぜ?」
「状況をわきまえろ、××息子。
『仕事』の時ならともかく、
このような場所で……何事だ?
――― 静まれ、ギコ・ハニャーン」
モナーが再度そう言ったのを合図に、意識を失うかのように彼はフッと眼を閉じた。
同時に、私にかかった呪縛が解かれる……
黒スーツのスリット。
その合間から、蒼の【不死鳥】を見せる青年は頭を降る。
頭に痛みが走っているらしい。青年はしかめっ面を見せる。
そこにいるのは、私が知るギコ君だった。
「………礼は言わねぇぞ。クソ親父」
- 60 :名無しさん :07/12/07 16:03:21 ID:PZdEE/t5
- ………頭が、痛い。けれども、これは一時的なものだ。
先程まで頭の中はぐちゃぐちゃになっていたのに、
……悔しいが、モナーの言葉で一気に平常心に戻った。
清々しいほどに思考は研ぎ澄まされ、あの状態の俺が何を吐いたのか、しっかり理解していた。
『俺』は、事実を言ったまで。だろ?
今の状態の俺だってそう思っている。
【保障】は出来ない。そこまで俺は面倒を見れないし、見るのも御免だ。望むのなら、何度だって言ってやる。
ありがたい事に、誰も繰り返しを望む者はいなかった。
壇上のアフォ姫は当惑し、クソ親父は冷静でいて、義兄弟は寂しげでいる。
俺が『ああ』なるのは、そう珍しいことじゃない。
通常の場では人並みに稀であるが、『仕事』のレベルが上の時、ああなる確率は高い。
自分でも知らぬ間に感情が激情し、自分で自分を疑うまでに俺は 【 狂 う 】 。
90パーセント、セーブは不可能と数値で示された俺は、ああなった後は大抵放って置かれる。
今までで一度も外部の人間に危害を加えないからって…常識じゃ考えられないと思うけどな。
放って置かれた時、雨の日は最高だ。雨に当たってずぶ濡れになれば、感情は冷めていくのだから。
手っ取り早い方法もあることはある。
だが、俺は気にくわねぇし、絶対にあちらだってやりたかねぇでやってるだろうよ。
奇妙なことに、ムカつく事に。
つい先程のように。モナーの言葉で、半ば強制的に俺は通常に戻る。
なんでかって?さあな、俺にもわからねぇ。モナーに聞いても「わからない」の一点張りだ。
いつか「親子だからでは?」と言われた時には虫唾が走ったが。
正直、理由を見つけるのには飽きた。
何度も何度も頭を張り巡らせた結果、何もわかりやしなかったのだから。
そうなってるのだから、そうなるのだろう。
……そう、結論づけた。
- 61 :名無しさん :07/12/08 23:43:14 ID:XVkXNlgM
- 「わかったんなら、とっとと出発するぞ。
【塔】までは結構距離があるからな。
モララー。すまねぇが、アフォ姫を任せた。
………先に外の空気を吸わせてもらうぜ」
頭を抑えながら、ギコは一礼すると退場した。
一時的なものとはいえ、痛いものは痛いらしく、
何よりも今現在の雰囲気からすると、一足先に退場することは得策だと思ったのだろう。
うん、正解だよ。ギコ。
『あの』ギコを見て、お姫様は深く動揺している。
僕でさえ、慣れないで、寂しい顔を見せてしまったしね。
「シィナ姫、参りましょう。
そんな風にならなくても、ギコは大丈夫です。
後でダッコでもねだれば良いでしょう、素直にやってくれるかもしれませんよ」
壇上から降りてくる姫は、小さく一回身震いする。
「あれはギコ君だったの…?」
「ええ、ギコです。僕も一週間ぶりに見ました。
実を言うと、昨日も『ああ』なったそうです。
待ち合わせをして、僕が遅れて少し怒られたけれども……
心の中では、ありがたいと思ったかもしれません」
「ギコ君は、【保障】はしないと言っていた。
何の保障なのか、貴方はわかる?」
「いいえ。わかりません。
仕事の内容から推測すれば『命の保障』でしょうが、彼は違うと言った。
ですが、これだけは言えます。
――― ギコが【保障】出来ないものは、僕にだって無理ですよ」
- 62 :名無しさん :07/12/09 07:34:29 ID:Qe47TucB
- 「先程はとんだ無礼を…申し訳ありませんでした」
「フン。あんたの言葉なんか聞き流してるから、何を謝られているのかわからないわ」
ピシャリと言われ、いつもならば眼光を鉛色に濁らせる場面だが、モララーは少し微笑んだ。
理由はわかっている。まだ少しは動揺しているとはいえ、シィナは『いつもの』調子に戻りつつあるからだ。
漸く、ギコと目を合わせられる顔となったところで、黄色の【不死鳥】を持つ青年は扉に手をかける。
「あんたにしては気が利くようになったじゃない。使用人に比べれば、まだまだだけど。 モナー!」
壇上の横にいるモナーは軽く首を横に振った。
「……私は済まさなければいけない用事があるので、今は共に行けません。何、すぐに終わりますよ。
モララーも言ったとおり、××息子に抱っこをねだっていてください。
あの子も最近させてもらえなくて寂しかった様子ですしねー、『ああ、シィナに触れてねぇ〜』とも言ってましたし」
ない、そんなことない。モララーは心の中でそう突っ込みを入れた。
「本当に? じゃあ、すぐに強請らなくちゃ!早く行きましょう! ……って、その前に」
少女は壇上を振り返る。上にいるのは…感情を失ってしまった、彼女の両親。
その変わり果てた姿をまじまじと見つめて、一瞬、醜い仮面が取れそうになったが、少女はぐっと堪えた。
お父様、お母様、待っていてください。私達はきっと甦らせてみせるから。
全てが終わった時には、私を叱って、そして笑ってください。
今は届かない、言葉を言おう。
「――― 行ってきます」
- 63 :名無しさん :07/12/09 09:22:47 ID:+UWLCc3H
- 静寂が訪れる ――― 薄気味悪いほどにそれが似合うようになってしまった、この世界。
モララーとシィナが退場し、碧のブローチを光らせるモナーは壇上の前へ歩を進める。
見上げればそこにいるのは、見送りの表情のままでいる王と王后の二人。
彼は懐から煙管 ― キセル ― を取り出すと、そのまま口に銜える。
「楽しんでいるところか?」
モナーはどこにいうまでもなく、そう言った。壇上にいる王と王后に向けたものではないのは明らかであった。
いや、もう王と王后はモナーの言葉を聞いていない。
モナーが煙を吐き出すやいなや、
ドドドドドドドドドドドド…バタン!
壮大な音を立て、壇上を転げ落ちてきたのだから。
自分の左に、右に。モナーは転がり落ちてきた男女の外傷も内傷もないことを確認すると、彼らを丁寧に寝かせた。
薄く半開きとなった目も閉ざして、踵を返す。
「私は貴様に負けるつもりは毛頭ないようだ。
証拠に、捨てたはずの正の感情を私は抱いている。それに加え、貴様に対してのこの感情もな」
煙管が細かく揺れるたびに、近くにいた使用人達は次々に崩れ落ちる。彼らの体を支える糸が切れたかのように。
モナーが扉へたどり着いた時、謁見の間で立つ者は一人もいなかった。
広間の隙間を埋め尽くすほどの崩れ落ちた人間を見渡し、煙管を銜えたモナーは出て行く。
「――― 私は、貴様が大嫌いだ」
出て行く際に言った、その言葉は、謁見の間でいつまでも反響していた……
その者が望もうが望むまいが、世界は動く。
彼らの様々な思惑が飛び交う中、不条理に、無慈悲に、動くのだ。
無意味だと、不可能だと、何も生まぬと。 貴様は嘲笑うのか?
それならば、貴様が滑稽な傀儡だと思っている者達の舞をお見せしよう。
さあ、楽しまれよ。
――― 序曲は終わった、本曲に入るぞ。
- 64 :美怜 ◆GIL.EWAhDE :07/12/09 20:11:17 ID:XJllTu+q
- 「……【塔】かえ」
何所でもないどこか。
永劫の闇の中で、ただ1つ。
紅い焔の灯りは、煌々と輝いていた。
「妾の真の望み……おぬし達に、叶えられるかのう」
一瞬だけ、焔の強さが増す。
赤と橙のコントラストが美しい焔に、巨大な【不死鳥】の影が、映った。
「……真の【転生】を!」
- 65 :名無しさん :07/12/10 08:35:42 ID:eTFimO3A
- 「ギコ、空の様子はどう?」
「……ああ。運転中だからそんなに見上げられねぇもんな。
灰色の曇り空だぜ。
昨日みたいに強い雨が降るよりかはマシだけどな。
ここしばらく見てねぇ、おてんとうさまは、いつ姿を見せてくれんのかねぇ………
―――――――― ?」
「どうしたの?」
「今、何かが雲と雲の間を通りすぎた……」
「具体的に言ってみて」
「赤と橙のコントラストの、焔の塊みたいなもんが見えた」
「えー、私には見えなかったよ」
「………気のせいか?
つーか、それ以上ひっついてくんなァァァ!!」
高級車の後部座席は騒がしい。運転手は苦笑している。
そんな中、助手席の男性はチラリと見上げ、誰にも聞こえない言葉で呟く。
「――― 空飛ぶバイクなら、見えたがな」
「――― 感づかれたぜ、フサ」
「 」
「バイクの運転中に、流石に 手 話 は無理だろ。
平気だ。オレが後ろをちゃんと見てるから。
こんな時の機械もあるから、そっちに思念を飛ばしてくれ」
「 」
「ピース? ――― オレの名前を呼んだのか。
『Two』……… ツー、だよな」
- 66 :名無しさん :07/12/11 08:03:43 ID:V21niqAr
- ハンドルを握る彼――― フサは、首を縦に振って肯定した。
後部座席に座る人物――― ツーも、ヘルメットの下でニカッと笑う。
何を原理にして、鉄の塊が宙を走っているのは知らないが、
皮肉にも、一国を消滅させるほどに進歩した科学のおかげなのは言うまでもない。
また、
「『様子はどうだ、敵意はあったか?』」
話せないフサがこういった状況で意思の疎通が出来るのも。
ツーの左手首には腕時計型の機械が備わっており、その中のモニターに映し出されている文字を読み取る。
「いいや。警戒止まりだ」
「『無難な行動だな。
露骨に、彼方を双眼鏡で見るのは控えた方が良さそうだ。
ただの一般人だっていうのに、盗賊やら不審者と思われるのは嫌だから』」
「OK……」
- 67 :名無しさん :07/12/12 20:20:16 ID:9UfUao06
- 双眼鏡から目を離す。鮮明に見えていた車は只の黒点となる。
携帯用双眼鏡を腰に戻し、ツーは軽く息を吐くと、フサの背中に寄りかかった。
「『安全装置には、気をつけて欲しいから』」
肌を通じて背中の温もりを感じる。
そんな中、彼の腰に違和感がある…そこだけが冷たい。
上着に隠れて見えないが、そこにある物は安易に予想できた。
「わかってる。ただの一般人ねェ…?
普通、ただの一般人が安全装置なんて言葉、使うかよ?」
- 68 :名無しさん :07/12/12 23:06:57 ID:OI1vu9SN
- ……隠された物に触れ、彼の背中を小突く。
- 69 :名無しさん :07/12/13 01:26:31 ID:grDrGzOa
- 彼からの返答はない。
ツーは一人微笑をこぼし、目を閉じる。
烈風と車の音だけが、彼らの感覚を支配した。
- 70 :名無しさん :07/12/13 06:42:53 ID:wVMP6b6p
- その際、彼女の首に巻かれていたスカーフが解かれ……
宙に放たれたのは、偶然か。それとも必然か。
- 71 :名無しさん :07/12/14 19:14:15 ID:QQ+xIJ8Q
-
ヒラリと落ちてきたそれを、手を伸ばして私は掴む。
空から舞い降りてきたのは、天使の羽みたいなファンタジーなものではなく、
薄い黒いスカーフだった。
……仄かに温もりを感じる。ついさっきまで誰かが身にまとっていたみたい。
「どうやら、落し物のようですね」
気づけば、煙管を持ったまま、モナーは私の方に向いていた。
- 72 :名無しさん :07/12/14 20:43:52 ID:SLgteSu7
- 黒
- 73 :名無しさん :07/12/14 20:47:30 ID:SLgteSu7
- 黒は珍しい色ではない。
この世界では当たり前の、ありふれた色。
- 74 :名無しさん :07/12/15 22:52:11 ID:Hov8HhHU
- だから…より一層、私達が身に刻んだ【不死鳥】のように、
そのスカーフに縫いこまれた文字は一際目立っていた。
- 75 :名無しさん :07/12/16 21:52:28 ID:/7mSo/G6
- 「Rebirth.…I believe you will rise from the ashes」
「再生。私は、貴方が廃墟の中から蘇るだろうと信じています=c…ってか」
- 76 :名無しさん :07/12/16 23:52:39 ID:4cfSbyQU
- 「! ギコ君、読めるの!?」
「……失敬な。俺だって、英語読めるくらいの学はあるぜ」
素直に驚く私を乗せて、ギコ君は不機嫌な顔で言った。
私も一通りの教養はついているので、このくらいの文章は簡単に読める。
- 77 :名無しさん :07/12/18 20:47:03 ID:GW7b0ewD
- 「さっすがギコくん! しぃちゃん大尊敬〜」
「おめーに尊敬されたってちっとも嬉しかあねえな」
とりあえず、普段どおりに振舞ってみる。当然のように一蹴されちゃったけど。
だから、とりあえず頬を思いっきり膨らませてみた。
「ぶー」
「……姫」
運転席のモララーが、私達の他愛ない喧嘩を遮って、言った。
「【塔】が見えてきましたよ」
黄色い猫の、いうとおり。
遠くの方に、天高く聳え立つ古びた建造物は、確かに見えていた。
- 78 :名無しさん :07/12/18 22:44:37 ID:PDjASL5B
- ついにやってきた。
国境線沿いの【不可視の壁】を出現させている機械がある、【塔】に。
「ギコ」
「別に、今は何ともねぇよ」
煙管を閉まったモナーの声に、ギコ君は素早く返す。
……『何ともない』というのは、先程の豹変のことを言っているのだろうか。
- 79 :名無しさん :07/12/18 23:27:33 ID:wBI9MfKb
- モララーはなんてことない様子でいたけれど…
また会うことがあったら、私は同じ反応を示す気がする。
早かろうが、遅かろうが、少し覚悟をしていた方がいいのかもしれない。
「スピードを上げましょうか、【塔】はもう目の前です」
バックミラー越しに後ろを見て、モララーはアクセルを踏み込もうとしていた。
そこに、私の手にある黒いスカーフを見ていたギコ君の停止が入る。
「ちょっと待ってくれ。このスカーフって、落し物だろ?
こんな文章が縫われているところを見ると、結構大事な物じゃねぇか?
持ち主に届けなくてもいいのかよ」
私も心の中でそう思う。
布の性質といい、文字を縫うのに使われた糸といい、決して高値ではないが別の温もりを感じた。
これは手作りのもの。しかも、それを使っていた持ち主も懇切丁寧に扱っている。
早く【塔】に行きたいことは行きたいけれども、このまま届けずに向かうのはどうも気が引けた。
判断に迷いかねた私達に、モナーは静かに言う。
「大丈夫だ。
このまま向かえば ――― スカーフの持ち主には、すぐにでも会える。
その時、どんな形で対面するかはわからんがな」
- 80 :名無しさん :07/12/24 18:46:42 ID:UqFebJK6
- 何処となく核心めいた物言いに、ギコ君はやれやれと首を振る。
「一仕事あるかもしれない、ってことかよ。
今現在、この世界で『感情』を持っていると確認されているのは俺達だけ。
なのに、事は起きやがる」
「お前にとっては、『仕事』をこなすことは満更でもないだろう?」
「……………。
へいへい、わかりやした」
彼等の台詞に時折入る『仕事』という言葉に、何時もながらの疑問を思いながらも、
私は黙ってギコ君に抱きついていた。
モナーはモララーに指示する。
「このまま【塔】に向かえ。
周囲の状況に目を配るよう」
「わかりました」
アクセルが踏み込まれ、車は加速する。
………ふと、後ろを振り返ってみた。
父と母がいる城は、すでに遠い影となっていた―――
- 81 :名無しさん :07/12/25 09:38:30 ID:ocIRzDOv
- ちょうど【塔】の裏口。
「あーあ。あのスカーフ…どっかに落としちまった。
服との組み合わせも良かったから、結構お気に入りだったってのに」
目的地につき、バイクの後部座席から飛び降りたツーは、
物足りなくなってしまった箇所に触れながら、残念そうに呟いた。
ツーが脱いだヘルメットを受け取り、自分自身も脱いだフサは、
バイクに括りつけていた、布に巻かれた細長い筒を彼女に投げてよこした。
ツーは片手で受け取る。
「『大丈夫だよ、誰か拾ってくれている人がいるって』」
「そうかー?今までこういうので親切な奴っていなかっただろ」
布の隙間から見えるのは、黒鞘に納まった日本刀。
- 82 :名無しさん :07/12/26 10:34:40 ID:hTa8ByE5
- 「フサ。今まで何人斬ったか覚えてるか?」
「『いちいち覚えていられないな、そんなの』」
「だろー?」
呆れたように答えるフサに、けらけら笑いながら同意を求めるツー。
ふと、その笑顔が消えた。
「お前が声を失ったのだって、全部襲われたからだろ」
茶色い毛に覆われた彼の喉に、目がいった。
毛のせいでよく見えないが、割と大きな古傷が、彼の首に大きく刻まれている。
- 83 :名無しさん :07/12/26 14:55:39 ID:IlngYmQO
- フサは自分の喉をゆっくりと、傷をなぞるように撫でた。
バイクから降り、手を動かして言葉を伝える。
……軽く微笑みを浮かべながら。
「『生きていられるなら、どうってことないよ』」
機能しない声帯。
口も動いているが、そこから彼の声が聞こえることはない。
「『命あっての物種、って言うだろう?
自分の強運に感謝しなきゃいけないから』」
- 84 :名無しさん :07/12/27 17:29:10 ID:mhOrdxKE
- 彼女は軽く笑い、機会にチラリと視線を向ける。そして
「もうすぐ仕事だ。その強運が続くように神にでも祈っておけ。」
と告げた。
「『『神』・・・ね。』」
彼の『声』は既に裏口に向かって歩を進めている彼女に伝わるはずも無く、フサはため息を付いて自分も後に続いた。
- 85 :名無しさん :07/12/27 23:39:52 ID:N5ZSTDCD
- 「『神に祈れ、だなんて………
らしくない台詞だ』」
- 86 :名無しさん :07/12/28 23:45:10 ID:bUg9gtKm
-
本音じゃない限り、
この世界では、祈りは通じやしないのに。
- 87 :名無しさん :08/01/12 00:21:35 ID:jy/Hk4Zm
- それからは特に何事もなく【塔】に着いた。モナー、モララーが順に出ると、俺はいつまでもくっいていたアフォ姫を蹴りだしてようやく下車した。最後に降りた者の義務として俺はドアを閉め、ロックをかけ、ポケットに鍵をしまった。
奴等は今この【塔】特有の面倒な訪問者登録をやっている。戸籍に書かれている内容は全て入力するのはもちろん、好きな食べ物や好みの異性のタイプまで入力するのはやりすぎじゃないか?
恐らくモララーが俺の分までやってくれているだろう。その間俺はぼんやりと【塔】を眺めていた。
- 88 :名無しさん :08/01/12 19:28:55 ID:MYpgVfWD
- 「……【塔】か」
この建物を見ていると、どうしても思い出す。
……忌まわしいあの出来事を。
「【不可視の壁】の向こう、絶対行こうな! 約束だぞ!」
「うん! 僕とギコとの、2人だけの約束!」
生まれながらに感情を持ってしまったからこそ持ってしまった、無駄な好奇心。
それに駆り立てられて、叶いもしない夢を追い続けた、幼かった俺たちの下らない口約束。
結局、果たせなかった。
- 89 :名無しさん :08/01/12 20:16:36 ID:a5hijIq+
- 嗚呼。久しぶりだな。
相変わらず、堂々と聳え立ってるじゃねぇか。
俺は変わっちまったよ。
強くなった代わりに……最高に、成り下がったぜ?
- 90 :名無しさん :08/01/13 01:53:51 ID:LlgrfYab
- 「ギ〜コくんっ!何してるの〜?」
突然背後から聞こえてきた甘ったるい声に慌てて振り返ると、案の定アフォ姫がそこに立っていた。
「柄にもなく物思いにふけっちゃってぇ〜。ひょっとして、かわいいしぃちゃんの事を考えてたんでしょ?」
冗談じゃない。俺はその意図をゲンコツで伝え、モララーたちの待つ門に歩きだした。
過去のことをあれこれ考えるのは後にしよう。今はただ、『オヒメサマのワガママ』につきあっていればいい。片手間でできる仕事じゃないのは解っているのだから。
−−−−『The die is cast.』
ふと、ユリウス・カエサルのあまりにも有名なこの言葉が頭にうかんだ。はたしていま投げられたのは『サイコロ』なのか、もしくは『死』だったのか・・・
- 91 :名無し :08/02/04 01:16:33 ID:kmoMsqSt
- 『「どうやら、正規の入り口から侵入しようと裏口から侵入しようと大して差は無かったようだな。」』
二人が【塔】に侵入してから初めてツーの機械に表示されたこの言葉は彼女達の周りの景色を的確に表現していた。
「全くだ。蛍光灯に怪しげな機械、床に張り巡らされたコード以外はなんにもねぇ。
おいフサ!本当に全部ダミーなのか?」
『「その筈だ。俺達が探しているものはこの【塔】の最上階にあると【クライアント】からは聞いている。
その上、物が物だけにここにある全ての機械はダミーどころか全て警報機のスイッチだと考えて間違いない。
もし、感情に任せてブっ壊しでもしたら即刻、【プリズン行き】決定だよ。
それにしても、よくこんな大層なもん作る気になったよな。俺だったら二秒で挫折してるよ。」』
全くだ。
ツーが再度同じ言葉を返すと、辺りには再び足音のみが響き始めた。
- 92 :名無しさん :08/02/21 14:30:16 ID:M7hN/A1+
- どうにか登録を終えて、俺たち4人は【塔】の中へ足を踏み入れた。
ごうん、ごうん、ごうん。
あちこちに延びた機械のパイプが、重苦しい音を発している。
時々、ぶしゅう、と派手な音を立てて蒸気を上げ、その度にしぃは大げさな悲鳴を上げて
俺に飛びついた……が、すぐに引き剥がした。
「それにしても大げさだよな」
「ぶー! 怖いものは怖いんだもん!」
「違ぇって!」
食いついてきたしぃにぴしゃりと怒鳴りつける。誰もお前に言ってないっての!
「訪問者登録の事だよ」
「……確かに。好きな食べ物や好みのタイプまで、とはね」
「んなもん次に来た頃には変わっちまってるっての」
「それは次があるかどうかの話だけどね」
笑いあいながら、モララーと他愛もない話をする。危うくここに来た目的を
忘れかけるところだった。
……クソ親父の警告を、聞くまでは。
「2人とも、静かに。……誰かいるモナよ」
- 93 :名無しさん :08/03/17 19:51:06 ID:tyVfvYHK
- 「マジか?俺、何も感じねぇぜ?」
「僕もだよ。
僕達が気配を感じなくて、父さんが感じられたってことは、
相手は相当……優秀だってことだね」
- 94 :名無しさん :08/03/24 22:44:40 ID:pArsy+mJ
- 怪しげな機械の音だけが鳴り響く。
ついさっきまでアトラクション感覚だったこの場所も、一気に張り詰めた所となった。
息を殺し、親父はヘビのように鋭い目である一ヶ所を睨みつけている。そこには、ひときわ大きい機械があった。
全ての面が鈍い銀色で、まわりの機械と繋がるパイプが数本ついている。
音は全て消されているだろう。近くにいないと声さえ聞こえづらい。
そこを見据えながら、親父はゆっくりと忍び足で近づいていく。
俺は腕にしがみついてきたアフォ姫を払いのけると、モララーに目で合図して親父の後に続いた。
- 95 :名無しさん :08/03/27 12:08:40 ID:E4oisV9I
- 『「……まて。誰かいる」』
フサのその『言葉』はこちら側の空気もピンと張り詰めさせた。
「ったく、まじかよ。数は?」
『「2〜3ってとこだ。先に飛ばしていた【ネズミ】に気づいたようだ。」』
「どうするよ?」
『「此処から大分遠い。ルートを変えて上るのがいいだろう」』
「だとすると……」
ツーはそういって腕の機械を少しいじり、顔を上げた
「ここから8時の方向に行って大回りするのがベストか」
『「ご名答」』
短い会話はここで終わり、二人は音も無く走り始めた。
- 96 :名無しさん :08/03/27 17:37:36 ID:PhQ94Sie
- 「……なんだそりゃ」
糞親父が白い指でつまんでいるそれを見て、俺は心底不機嫌な口調で言ってやった。
「何って、【ネズミ】だよ」
「んなもん見りゃわかるっての!」
モララーにそう突っ込まれ、同じく突っ込みで返す俺。
こんな漫才をしている状況じゃないだろ俺ら。
「……【ネズミ】……小動物型の偵察用ロボモナね。こんなもの、どこで手に入れたんだか……」
親父の指がつまんでいるのは、文字通り【ネズミ】の尻尾。
素人が見ればよくできたおもちゃにでも見えそうなそれ。見ていると豆電球の瞳が休みなくちかちかと光り、
ときおりジージーと鳴き声が……否、歯車のような機械音が鳴った。
「とりあえず破壊しませんか? 盗聴や盗撮機能がついているはずですから」
「そうモナね」
モララーの提案にうなずき、親父が【ネズミ】の尻尾をつまんでいた指をぱっと離す。かしゃんと音を立てて
床に落ちたそれを、親父の革靴を履いた足が容赦なくぐしゃりと踏み潰した。
うわ、遠慮なし。ってかえげつねえ。まあ今に始まったことじゃないが。
「ねえねえ、これってもう1匹ぐらいいないの?」
そう思ってると、後ろからアフォ姫に尋ねられた。
「? 何でだよ」
聞き返すと、しぃはちょっと勝ち誇ったみたいにこう言った。
「あら、分からない? 盗聴とか盗撮とか、物騒な機能だけ取っ払っちゃえばただのおもちゃじゃない。
よく見たらちょっと可愛いし、欲しいかも……って」
「ただのわがままじゃねえか! 後でおもちゃ屋にでも行って来いゴルァ!」
「何言ってんの! 私は姫よ! 町になんか出られるわけないでしょ! じゃあ、その時はお願いねあなたたち♪」
「だが断る!!」
生命を狙われているかもという危機感が無くなった途端、たちまちけたたましくなる雰囲気。結局、
モララーが仲裁するまで俺とアフォ姫の痴話喧嘩は続いた。
「……おかしいモナ」
親父の独り言に、誰一人気づかないまま。
「さっき感じた気配は、このおもちゃのじゃなかった……」
- 97 :名無しさん :08/03/28 10:15:02 ID:1WvtFck0
- 『「【ネズミ】が消された」』
フサの舌打ちと共に腕に付いた機械のディスプレイ上に文字が現れた。
「マジかよ」
『「マジだ。折角、【モナジェクトX】録画してたのに全部パーだ」』
拳骨。頭を抑えながら目に涙を浮かべているフサにツーが吐き捨てるように言った。
「組織の備品で番組予約なんざしてんじゃねぇ!親父趣味が!」
『「だって来週で最終回なんだぞ?カウントダウンが始まったら全部見るのがファンの礼g」』
「どうした?……いや、なるほどな」
『「流石、勘がいいね。ここだよ」』
フサはそういい、おもむろに右手を伸ばした。その指がパネルに到達するとめぐるましいスピードで
タッチし始めた。やがて機械がかん高い電子音を発した。
「凄い凄い」
口笛を吹いたツーが上を見上げる。天井に直径3M程の穴が空いていた。
『「喋るな。舌噛むぞ」』
機械にそう表示された瞬間、足元からなにかが割れるような音が2人の耳に届いた。
「おいおい大丈夫なのかあああああぁぁぁぁぁ!」
その場に叫び声が響いた時には2人の姿はそこから消えており、いたはずの場所にぽっかりと穴があるだけであった。
- 98 :名無しさん :08/03/29 01:23:34 ID:BDWHDC24
- 唐突にアフォ姫が後ろを振り向いた。半分腕にぶら下がれているような状態で
体ごと振り向くもんだから重心が狂う。結果、転びそうになった。迷惑この上ない。
まあ腕に当たる感触の心地よさは否定しないが。
「どうされました?姫?」
モララーの声が響いた。クソ親父もこちらに注意を向ける。
「黙れクソモララー。ぎ〜こく〜ん、いまあっちから変な音が聞こえたの。怖いから確かめてきてよぉ〜」
「……生憎だな。俺は今考え事をしているんだ」
「考え事?」
「ああ、そうだ。俺は今、どうやったらお前のクソ甘ったるい飯に
枯葉剤を盛れるかを脳みそ120%フル回転で考えてるんだ。」
「ひっど〜い!いいもん。クソモララーに全部毒見させるから」
いつもの漫才で長くなると判断したのか、クソ親父が手で制した。
「二人共、痴話喧嘩はお終いにするモナ。姫、どのような音が?」
アフォ姫はわざとらしく考え込むようなそぶりをした後、
上に向けた手の平をもう一方の手のこぶしでポンと叩いてからこういった。
「断末魔…かな?」
- 99 :名無しさん :08/03/29 01:23:54 ID:BDWHDC24
- 「OK、スルー決定だ。」
「ギコくんひっど〜い!」
「死んでる類はめんどいからいやなんだよ!」
「モナは痴話喧嘩は止めろって言ったモナ?」
クソ親父の冷たく鋭い眼光と鶴の一声でその場は収まった。その後、
その場で話し合いという名の一方的な拒否権無しの脅しが行われた。
決まった事は二つ。一つは今から全員で例の音源を捜査する。もう一つは
町に戻ったら最新式の【ネズミ】を俺がアフォ姫にプレゼントするという
内容だった。しかも自腹で。いくらすると思ってんだ、クソッタレ!
「どんな手を使うんだ?」
出発直前、誰にも気づかれないようにモララーが俺にこっそりと言った。
俺が何のことか分からずにポカンとしているとじれったそうに小声で付け加えた。
「枯葉剤だよ枯葉剤」
合点がいった。コイツはさっきの事を本気にしてるんだろう。まあ毒見はやらされる
のは確定だからしょうがないが。正直案は浮かんでいなかったが、適当に耳打ちすると、
モララーは満足げにうなずき、クソ親父の横という自分のポジションに向かっていった。
- 100 :名無しさん :08/06/23 17:17:54 ID:2XFVFCch
- いきなり床に開いた黒い穴に吸い込まれ、着地態勢も整っていない状態でツーは底へ落ちた。足は下を向いていたものの、
伸ばしきっていたせいでまともに着地できず、ドスンと盛大な音を立てて尻餅をつく。それと同時に、大量のホコリが舞った。
「お前なあ! 落ちるなら先言えよ!!」
頭の中が混乱しているせいか、片膝をついて軽やかに着地したフサに対しての第一声はそれだった。
そんなツーを見て、フサは顔を引きつらせながら苦笑いをする。
『「悪い悪い。ツーなら上手く着地するかと思ったけど……そうでもなかったな」』
あざ笑うようにそう話すフサを見て、ツーの怒りのボルテージはMAXになった。
すくっと起き上がり、フサの胸倉を勢いよくつかむ。至近距離でフサを睨むその顔は、まさに鬼だった。
「てめえなあ! 人をおちょくるのもいい加減にしろよ!? こっちは心臓止まる所だったんだぞ!?」
ガクガクと頭を揺すられ、フサは返事すら出来ないでいた。いや、ツーが返事をさせないようにしていた。
- 101 :名無しさん :08/06/24 02:28:20 ID:qsi9aVSB
-
かちり
何かがかみ合うような音と共に、薄暗かった部屋が蛍光灯の清潔な光で満ちた。部屋は狭く、あたり一面真っ白で、何も無かった。無い様に見えた。
突然のことに驚いたツーはフサを突き飛ばし、臨戦態勢に入る。しかし、対照的にフサはあくびをしながら伸びをするという余裕を見せた。ツーはまるで汚物を
見るかのような視線をフサに向ける。
『「上手く作動してるな。着いたよ。ツーちゃん」』
ディスプレイには、そう表示された。それで彼女は理解する。これはフサが意図的に照明を作動させたのだ。
「フサ、お前友達無くすぞ? 」
『「ツーちゃんという一生のパートナーがいるから大丈夫ですぅ」』
彼の言葉に彼女の顔は一瞬紅く染まった……かどうかは定かではない。しかし次の瞬間フサの喉元にナイフの刃が当てられた事だけは事実である。
数分後、その場には頭にたんこぶをこさえた長毛種の男が、泣きながら部屋の壁に向かって怪しい作業をするのを、後ろで仁王立ちになってそれを見張る赤いボーイッシュ過ぎる女性AAという場面が完成した。
- 102 :名無しさん :08/06/26 15:41:14 ID:2ObtSRfz
- 『「あれ、おかしいな……」』
フサが作業を開始して十数分後、今だ顔の毛が湿っているフサの言葉がディスプレイに映し出された。彼の前にはキャンバスのように
真っ白な壁があるだけだ。その壁の一点を見据え、不思議そうな顔をする。
その真後ろの壁によりかかっていたツーは、その様子からして異常があるのかと思い壁から離れて
ゆっくりとフサに近づいていく。その間もフサは動きを止めていた。
フサの左横にツーが並び、ツーはフサの目線を辿る。だがその先にはただ壁があるだけだ。
「何か問題でもあるのか?」
『「問題も何も……作業は全部終えたはずなのに、変化がないんだよ」』
壁を見たまま困り顔でそれだけ言うと、フサは黙り込んでしまった。
「ちゃんと手はず通りやったんだろな?」
『「当たり前だろ。俺がしくじるわけが無い」』
「……どうだろうな」
『自分は絶対ミスをしない』とも受け取れる言葉に、ツーは呆れて思わず呟く。その後、「自惚れてんじゃねえよ、ナルシスト」とも呟いた。
- 103 :名無しさん :08/06/26 16:49:48 ID:2kNsFqOm
- 「おいおい……冗談じゃねぇぞ? 言っとくが、俺は此処で一生を過ごすつもりは無いからな? 」
そう言いながらツーは目のは目の壁に手を伸ばす。それに気づいたフサは、その手を押しとどめた。
筈だった。だが実際には、その手は重心移動をしていた彼女の体のバランスを狂わせたに過ぎなかった。
「おわわわっ!? 」
まぬけな悲鳴を上げて壁に倒れこむツー。しかし、壁は彼女の体を受け止めはしなかった。体はまるで障害など最初から無かったかのように倒れ、かべを突き抜けた。
スローモーションがかかったように、ゆっくりと。彼女の姿は、視界から消えた。
「『台上うぶ1? 津=ちゃん? 』」
フサが『悲鳴』を上げる。指は震え、その視線は壁から突き出た2本の足首から下を凝視していた。
その興奮は、壁の向こうから聞こえてきたうめき声に良く似た返事を聞くまで治まらなかった。
- 104 :名無しさん :08/06/26 16:53:11 ID:2kNsFqOm
-
『「ツーちゃん? 大丈夫なの? どんな感じ? 」』
「一応今は平気。でもこっちは真っ暗。一寸先も見えねぇ。しかもどんな罠かも知らんから下手に動けねえ」
『「よかった。ちょっと待って。今調べるから」』
落ち着きを取り戻したフサは壁に向かっての怪しい作業を再開する。その間、ツーの脚はぴくりとも動かなかった。
- 105 :名無しさん :08/06/26 18:48:04 ID:2ObtSRfz
- カタカタとキボードのような物を叩き鳴らし、動けずにいるパートナーを助けるべくフサはこの現象について調べていた。
やがて幾多も繰り返されていた音がやみ、ディスプレイを眺めてフサは一息ついた。
『「よし……これが何か分かったよ、ツーちゃん」』
「マジか? 早く教えてくれ」
『「どうやらこれがドアの役割をしているみたいだ。俺はてっきり扉が出てくると思ったが、そのまま壁を通り抜けるらしい」』
フサは壁を安心したような瞳で見ながらそう説明した。ツーがいるところは真っ暗らしいが、言葉を読み取れる所からして画面を発光させているのだろう。
フサがキーボードの一番右上のキーを押すと、上に現れていた画面がプツンと消えた。
「扉代わりってことは、こっから進んでも大丈夫だよな?」
『「たぶん。罠がないとは言いきれないけど」』
フサの言葉が届いたのか、中途半端に残されていた足の残り部分が壁に吸い込まれて行った。それを確認すると、フサはキーボードの裏にあるスイッチを切り替えた。それと同時に、今度はそれ自体が無くなる。
両腕を壁に押し付けるようにして伸ばす。だがそれは壁に押し返されることは無く、溶けこむようにして見えなくなる。それを確認すると、目を閉じて一気に壁の先へ踏みこんだ。
- 106 :名無しさん :08/06/27 18:58:46 ID:wZPs/za1
- 壁を通り抜けた瞬間、足を踏み外したような感覚に襲われた。
「おわあっ!?」
予想外の事態に内心慌てつつも、いつものように軽やかに着地する。
どこも怪我をしていないことを確認して、ツーはしっかりと立ち上がった。
ここはおそらく【塔】の中腹。
国中がしっかりと見渡せる円形の部屋に落ちてきたらしい。
あちこちにコードが伸び、その先は部屋の中心にドンと置かれた巨大な機械につながっていた。
時折電気のショートのような音や、乾いた蒸気の音がそこかしこから聞こえてくる。
「ここ……何だ?」
『どうしたの?』
「妙なモンがあるぜ、お前も来いよフサ。あ、それから足元注意な」
そう呼びかけた少し後、頭上に見知った気配を感じて、2・3歩後ろに下がっておく。
そのままツーが黙って見上げていると、やがて天井の壁から、フサの姿が壁をすり抜けて現れた。
- 107 :名無しさん :08/06/28 10:41:32 ID:818fYff+
- 始めから障害物などないかのように、フサの体はするりと壁を抜ける。
妙な感覚の後フサが目を開けると、一瞬目を閉じたままなのかと思うような錯覚に陥った。それもそのはず、ここはツーが言った通り光が全く届いていない黒で塗りつぶされた空間だった。
その中でフサは宙に浮くわずかな光を見つけ、そこに向かって話しかけた。
『「着いたよ。にしても、本当に真っ暗だな」』
「ああ、俺も驚いたぜ。いきなり闇の中に放り出されたからな」
すぐさま光のある方向からツーの返事が返ってきた。フサはとりあえずそれに安心すると、再びキーボードを出して画面を立ち上げ、めまぐるしいスピードで叩き始めた。
その異変に気づいたのか、ツーが心配そうに声をかける。
「おい、何やってんだ?」
『「何って、電気をつけるんだよ」』
フサはそれだけ答え、この空間では眩しすぎる画面を食い入るように見つめながら作業を進めた。
- 108 :耳もぎ名無しさん :08/07/08 12:28:50 ID:OEHEGeMF
- 「ギコ、わかるか」
モララーの声が響く。
「ん。来たな」
- 109 :名無しさん :08/10/30 13:34:04 ID:UN1isHWP
- 「な、ナニ、何!? 何が来たっていうの!?」
- 110 :ユー:08/11/01 00:02:34 ID:P+ZbOqcX
- 「そうねぇー。貴方達の命を狙っている、かわいい女の子とでも言おうかしら」
通路に気高く若い女の声が響き渡る。それと同時にこちらへと、向かってくる足音が聞こえてきた。
- 111 :名無しさん :08/11/04 12:47:12 ID:q7JovtvH
- 「かわいい、ねぇ」
「あ、やっぱり私のほうが可愛いって思うんだ? もー、ギコくんったらー」
ギコの額に血管が浮くのがわかった。ぎちぎちと拳に力を込めているが、殴りかかる気配はない。
それでいい。自重してくれ。
「まあ、顔がかわいいことは否定しないかな。殺し屋をやってる時点で腹の中は知れたもんじゃないけどね」
「酷い事言うわねぇー。まあいいわ、気にしないから」
- 112 :さらら :08/11/04 22:58:29 ID:MOzHWZzl
- そこまで聞くと同時に、ギコは何かを見た。 鋭く光る何かを。 それが何かを考える必要はない。
これまでの会話。 そしてまだハッキリとは見えない女の、静かだが大いなる殺気。
ここまで感じ取れればもう解ってもいいだろう。 そう―
刃だ。
- 113 :ユー:08/11/05 00:56:14 ID:z73vPESd
- その刃は殺傷能力が高いコンバットナイフだ。よく磨かれ、鏡のように反射しギコの顔を映し出している。
それだけではない、腰には真っ黒で重そうなリボルバー式拳銃が掛けてあるのだ。
黄色い体毛・右耳が黒く、殺気を宿しているが透き通るような蒼い眼。
年齢はシィナと同じくらいに若く、顔も微妙に似ている。
こんな女の子が殺し屋だなんて、ギコは全く信じられなかった。
- 114 :名無しさん :08/11/15 21:58:49 ID:36V4kJCs
- (全く信じられない……か)
そういう訳じゃない、そういう訳じゃ、ない。
ギコは心の中で否定し、目の前にいる存在を品定めするように見る。
- 115 :名無しさん :08/11/16 12:59:40 ID:IUlMGasI
- 顔立ちは整っている。腹の底が知れたものではないことは確かだが、そこは女性という点では十分評価に値するか。
体の凹凸はあまり無い。まだ幼い。14か15、といった所だろう。顔立ちにも、まだ成熟した女性の爛熟した果実の香りは無い。
線は細い。少なくとも、俺とモララーのように、服の上からでも筋肉が見て取れる程ではない。見れば、下げているナイフもリボルバーも軽い型のものを使っている。
あまり、力は無いのか。
ならば、特技はあの体を生かした諜報活動と暗殺、といったところか。
……痛々しい。『親父殿』に拾われたころの俺とモララーよりも、もっと酷い道を歩んできたのだろう。
だが、それはどうでもいい。この馬鹿王女を守ることは『仕事』で、目の前の女はその馬鹿王女を殺そうとしている『敵』だ。
ならば、容赦する必要も意味も無い。
「来るがいい、貴様をエスピオン。叩き殺して、この残業を終わらせてやるよ」
- 116 :名無しさん :08/11/16 13:00:44 ID:IUlMGasI
- ミスった。
一番下は
>>「来るがいい、エスピオン。貴様を叩き殺して、この残業を終わらせてやるよ」
でしたorz
- 117 :さらら :08/11/16 14:26:44 ID:bjfC9HhQ
- ギコは護身用にと腰につけた剣を勢いよく抜く。 とても細い剣だった。 レイピアとはいかないが、それにしても細い。
つばや柄刀身に装飾も施されていて実践用というよりは芸術の作品のようだ。 さらに、どういう意図があるのか、刀身が球根のような形に広がっている。 フランベルジュのように、深く斬る。 というような意図があるようにも見えなかった。
しかし、それは異様にギコの手にしっくりと来ている。
「ドレスソード……?」
「あんまその言い方は好きじゃないんだが……」
しぃの呟きに苦笑しながら答える。
しかしその瞬間、冷やりとした空気がギコの体を強張らせる。
「ッ!?」
女は既に後ろにいた。
- 118 :名無しさん :08/11/16 16:30:10 ID:ODHs8zae
- 「あらあら、ドレスソードなんて実戦向きじゃない武器を使うなんて……」
首元に、冷たい刃が突きつけられる。
「刃が当たって痛いんだが」
「当ててんのよ。―――さて、そこの二人。交渉よ」
「何かな? ちなみに、ギコの命の代わりに王女を殺す、というのには応じられないな。彼女はゆくゆくは国家元首となる人間だ。そんな人間とギコでは、あまりに釣り合わないね」
「あら? 意外と冷徹ね。じゃ、殺すわ。使えない人質に用は無いもの」
- 119 :名無しさん :08/11/16 19:01:20 ID:ZvJjRIV1
- ものの十秒で交渉決裂。ギコは溜め息をつく。
「……やっぱり、このパターンかよ」
- 120 :名無しさん :08/11/16 22:33:40 ID:ODHs8zae
- 「そうね。残念だけど、死んでもらうわ。かっこいいお兄さん」
瞬間、ドレスソードを投げ捨てる。驚いた暗殺屋が腕の力を抜いた瞬間、暗殺屋の腕を、瓦割りの要領で叩き折る。
ぼきん、という小気味良い音が聞こえた。それは、俺が暗殺野郎のくびきから逃れたという証拠でもある。
ところで、武器が無い。
「親父殿、武器を貸してくれ」
だが、親父殿は体を引いてNO THANK YOUと。ダディクール死ね。モララーは体を二つに折って笑っている。
「はーい、ギコ君! これはいいものだよ!」
そういって馬鹿王女が剣を投げてくる。なかなかに大きい。
「王家の剣だからね。その剣できっちりと闖入者を叩き殺しなさい」
銘がある。
「アロンダイト、ねえ。成る程、大層な名前だ!」
- 121 :さらら :08/11/16 23:45:06 ID:bjfC9HhQ
- 「いたいじゃないの。 女の子には暴力で愛するタイプかしら?」
そう言いながら女はギコが攻撃した手を押さえながらこちらを睨んでいる。 どうやら腕をずらしてダメージを和らげていたのだろう。 折れてはいないらしい。
しかし、ギコはそんなもの、気にも止めない。
「ハッ! こっちはバカ姫をいっつも殴ってんだ! 男女完全平等なんだよ!」
アロンダイトの切っ先を向けながらギコはカミングアウトのおまけつきで吠え、女は正面から突っ込んでくる!
一瞬で肉薄されると、ギコは次に何が来るかを瞬時に判断し、身を屈めて女が繰り出したナイフを紙一重で交わす。
お返しにとアロンダイトを振り回すが、慣れていない大剣は、簡単に跳んで避けられてしまう。
「使い方が完全に素人ね!」
「それはどうかな!?」
避けたばかりの女は空中。 ギコは振りかぶった体制。 互いに隙だらけだ。
- 122 :名無しさん :08/11/16 23:45:38 ID:tcEyoc1w
- Alondite。某王伝説で、円卓の騎士の一人が愛用していたという剣の名。
「ぐっ……があっ!」
暗殺屋は叩き折られた痛みで、その手からコンバットナイフを落とす。
しゃがんだ姿勢でシィナからの剣を手にした俺は、体を器用にくねらせ、地に落ちる前にナイフの柄を蹴った。
ナイフは真直ぐ軌道を描いて、空いた窓から遥か遠くへと飛び、やがては見えなくなった。
とりあえず、あの刃の脅威はもうない。
- 123 :名無しさん :08/11/16 23:47:50 ID:tcEyoc1w
- 被った;
>>122はスルーで。
- 124 :名無しさん :08/11/17 07:52:54 ID:Pu6CDfzS
- 「フン、こんなものか」
ギコと暗殺屋の一戦を、モナーは冷ややかに観戦していた。
隣にいるモララーは背後にいる姫を守ることに意識を集中させながら、義父親の言に応じる。
「……大概はこうでしょう。
『こちらが素人な面を見せただけで』、相手が間違った認識をするのは珍しいことじゃない」
- 125 :Longinus ◆K6rAsqUXw6 :08/11/19 12:47:58 ID:trgB/JKF
- 「素人はそっちだろう! 馬鹿が、空中に跳んで避けたら、それ以降の攻撃に対応できないだろうが!」
そう叫んで、アロンダイトを放り投げる。シィナの目の前の壁に突き刺さり、音叉のように振動し、やがて止まる。
ギコの武器が無くなったのを見て、エスピオンはにやりと笑い、ギコの背中に向けてナイフを振りかぶる。
狙いは心臓、空中からの落下の衝撃と全体重を加えた短剣は、あやまたずギコの背骨を貫通し、心臓に深く達するはずだった。
しかし、それは当たらない。代わりに、幅広のナイフが―――ククリナイフが、それを受け止めていた。
「なっ!?」
「こいつはククリナイフって云うんだが……知ってるか? こいつは、鞘から抜いたら最後、血を吸うまで収めちゃいけないそうだ」
左手で持っていたククリナイフで、エスピオンのナイフを持っている手を切り落とす。
エスピオンは女性独特の黄色い叫びを上げ、首元に巻いていたスカーフをとる。
片方を口で噛み、もう片方を無くなっていない手でつかみ、傷口をしっかりと縛る。
その眼前で、ギコのククリナイフは左手から右手に、順手から逆手に持ち替えられた。
「お前の血を、こいつに吸わせろ!」
エスピオンの表情が固まったのは、驚愕によるものか。それとも、死を予感した恐怖か。
かくして、エスピオンの予感は的中する。
ギコのククリナイフはあやまたず心臓を抉り取り、背中に突き出る。
そして、体重をかけて、心臓から股までを一気に切り裂く。
ピンク色の臓物と紅の血、そして無数の体組織が飛び散った。臓物に詰まっていた排泄物も、また飛び散った。
シィナが倒れる。衝撃を受けて、気絶した。それを見ても、ギコは冷徹な表情を崩さない。
それどころか、こうまで言い放って見せた。
「だから言ったんだ。『保証しねえ』ってな」
- 126 :名無しさん :08/11/19 23:04:19 ID:Yb1khQKM
- 倒れるシィナを即座に受け止めたモララーは、真っ二つに引き裂かれた死体を見つめる。
やがては息を吐き、己と同じくらいのギコの背中に投げかけた。
「敵は当然……だけど、今回のギコは姫に対しても容赦ないね」
「前もって忠告はしたぜ?」
- 127 :さらら :08/11/19 23:32:02 ID:3Q59zQ5M
- 「あ〜あ、なんて事してくれんのさ〜」
不意に聞こえる間延びした声。 声変わりのしていない少年の物だった。
全員がそこを向く。 そこには凛々しい顔の少年が立っていた。
「誰だお前」
ギコが警戒心を持ちながら聞くと、
「ん? あ〜、本名はいえないけど、コードネームは『サジタリウス』。よろしく〜」
そう言いながら延びた頭の毛を払う。 不思議な色の毛だった。 まるで、虹の七色を纏めたかのような、不思議な色だ。
サジタリウスと名乗る少年は、一息ついてから先ほどギコが切り裂いた少女の死体を見直すと、一瞬顔をしかめたが、それはすぐにもとの表情へと戻る。
「こんなにしてくれちゃって……ま、後で戻って『直してもらうか』」
「「「!!?」」」
一瞬聞こえたありえない単語に、誰もが反応した。
- 128 :ユー:08/11/20 01:07:22 ID:pUn3cq/l
- 「なっ!直すってこいつは死んでいるんだぜ! 機械なら直せるが、こいつは人間! その証拠に血や内臓だってあるんだぞ!」
ギコはサジタリウスの言っている事に否定し反論する。
しかし、彼の動じない落ち着いた態度は変わらない。
「ミィ、『死んだフリ』していないで起きなよ」
ゴソッ・・・
まさか・・・ そんな事は・・・
ギコ達はは恐る恐る。足元にある少女の死体に視線を向ける。
「あーあー、やるじゃない。アタシの負けね。」
「「「くぁwセdrftgyふじこl0p;−@:」」」
悲鳴にならない悲鳴が塔に響き渡った。
- 129 :名無しさん :08/11/20 09:26:50 ID:Sk2hZZpB
- 綺麗に縦に裂かれた女性の体。左、右と口が動き、しゃべる。
ギコは驚きのあまり口を大きく開け、モララーは顔面蒼白になり、不気味にその様を見ている。
塔に反響していた悲鳴が耳につかなくなった頃、フッと一息。モナーだ。
「……まあ、異の存在の遭遇や証明が……
こんな在り来たりでグロテスクだろうとは予感していたがな」
「予感していた割には俺達に負けず劣らずの悲鳴上げたじゃねぇかよ、クソ親父様」
ころりと平常の顔に戻っている義父親に、ギコは台詞を吐く。
疑心たっぷりなじと目を向ける義理の息子に……
あろうことか、モナーは舌を出し、キラッ☆とピースサインを頭に翳した。
「二人に便乗してみたモナ☆」
「そんな便乗いらねぇェェェェ!!!!っていうか、キャラ違ェェェェェ!!!!
先程までのシリアス色は何処いったァァァァ!!!!」
「ど、どーどー、ギコ……落ち着いて……」
てめえのそれがよっぽどグロテスクだの、今すぐたた斬ってやるだの、怒りに燃えるギコをモララーは止める。
- 130 :名無しさん :08/11/20 09:29:30 ID:Y27tQuyF
- 演技じめたため息を盛大に吐くモナーを、サジタリウスは感心と警戒の視線を向けた。
「異の存在のこと……知ってるんだ。へぇ、その口振りからだとミィがこんな状態になる前から気付いてたみたいだね。何時から?」
「最初から。最も、確信したのは、そこに倒れている娘さんが隙を見せた時だが。
とっさに『思い込む』などと、感情を持たない人間が器用に出来る訳がない」
- 131 :名無しさん :08/11/20 12:51:03 ID:YbAc2ZDa
- 「はは、ニンゲンにしてはなかなかの洞察力だね」
「恐れ入ります、『使者』殿。レイズ様は今、どちらへ?」
「レイズ……?」
ギコの唇が、震えるように動く。
それは畏怖か。それとも、純粋な恐怖か。
ギコの視線が、大きくスリットの入った、自らの太ももへと向かう。
そこに描かれるは、深青にて描かれた『不死鳥』
去来するは、それを刻まれたときに見、聞いた『女』の姿―――。
「何だ、これは。頭が割れる……」
ギコが、地面に倒れ伏す。
- 132 :さらら :08/11/20 22:35:49 ID:Muj8dlr/
- 「どうした、ギコ?」
モララーが心配そうにギコへとよる。 しかし、
「あああああああああああああああああああああああ!!!?」
絶叫が一帯の空間を響かせる。いきなりの絶叫に、さすがのサジタリウスも反応した。
「……なるほど、そういうことか」
口元を吊り上らせながら呟く。 しかし、サジタリウスがそれに興味を持ち続ける時間は十秒も無かった。
誰もが反応できない速度で、エスピオンの死体をどこからだしたのか、大きな袋で包んだ。 死体の入った袋を何故かお姫様抱っこの様に持つと。
「今の僕のお仕事は状況把握とお知らせだ。まぁ、このこのおかげで仕事が増えたけど。
知らせとくよ。君達は自分の身に気をつけたほうが良いってね」
「何?」
モナーとモララーがギコの身を案じながら、サジタリウスを睨む。しかし、そんなものに動じる相手ではなかった。
「特に僕には気をつけたほうがいいよ。今の君達じゃ全員がかかってきても僕に傷一つつけられないし、なんたって僕は、『サジタリウス』だからね」
そこまで言うと、死体の入った袋を担いだ少年は、音も無く、姿を消していた。
- 133 :名無しさん :08/11/23 21:55:27 ID:XvDKuFOg
- 静寂がその場に宿る。
ギコは未だ頭を抑え、うめくが、先程よりもよっぽどおとなしくなった所を見ると幾分かマシになったようだ。
膝にシィナを乗せ、モララーは引き続きギコの身を案じている。
そんな中、モナーは薄目を開け、冷静に頭を働かせていた。
(……やはり、そう簡単に居場所を告げることはない、か。
だが、あの者はいささか自分を過大評価し、こちらを過小評価しているな。
使者の割には見る目がない。私はこの二人をどこにでもいる雑魚に育てたつもりはないぞ?
それはさておき……ギコには訊かなければならないことがある。
私の予想通りの答えを出すだろう、あの問いを)
- 134 :さらら :08/11/23 23:25:00 ID:19OE8YB2
- サジタリウスは薄暗い空間の中にいた。
無数のケーブルのようなものが床を埋め尽くし、壁には、これまた無数の巨大なカプセルが並んでいる。
中には緑、赤、青、黄色など様々な色の液体が入っており、一緒に意味不明な機械や眠っている人体なども入れられている。
相変わらず悪趣味な場所だと、サジタリウスは誰にも聞こえないように舌打ちする。
不意に女の声が聞こえてくる。
「おかえり〜♪私の可愛いこねこちゃん♪状況はどうだった〜?」
キャッキャキャッキャしながら現れたのは薄縁眼鏡と白衣が印象の、絵に書いたような研究員といった風貌の20代前半と思える女だった。
やや豊かな胸が揺れているのを見ると、こいつまた下着着ていないのかと、サジタリウスは心の中で呆れる。
レモナ・ガブリエール。彼の上司に当たる存在だ。
「あなたの予想通りでしたと言っておくよ。あと、エスピオンがやられた。直してあげて」
サジタリウスがエスピオンが入った袋をレモナの前に置く。 すると、彼女は「アラ?」と不思議そうに首をかしげた。
「そうなの……。解ったわ♪ちゃんと元通りにしてあげる♪それと、ゴメンネ?『私の最高傑作』であるあなたにこんなつまらないお仕事お願いしちゃって」
本当に申し訳なさそうに両手を合わせるレモナ。サジタリウスは小さくため息を吐く。
「問題はありません。だけど、非番の奴もいたのに、何故僕を?」
「だって〜。『ヴェガ』は我侭だから聞いてくれないし、『バルムンク』は寝たまま起きないし〜」
「………………」
本当にダメな上司だなと、サジタリウスは心のそこから呆れた目線でレモナを睨んだ。
- 135 :名無しさん :08/11/24 07:55:01 ID:UnaqTY68
- 「でも、良かったわ♪ 私の予想通りってことはやっぱり、そこにいたのね〜」
渡された袋の封を開け、中身を確認し、さて、どうするか〜とレモナは首を捻りながら、言う。
サジタリウスは揚々と死体を掴む上司を見、ため息をついて後ろの壁に背中をつけた。
「ええ、まあ……。しかし、理解できません。
昔も現在も貴女が執着するAAに、今回初めて僕は接触しましたが、凡人より少し上ってくらいで貴女に釣り合うと思いません」
「ふふふ、いささかどころか、重度のセンスのなさね。全然変わってないわ。君の、人を見る目。
ま、いいか♪ そんな視点で君が見ることも私の予想通りだし。
モナー、モナー、私が愛してやまないモナー。好きよ、好きなのよ、貴方の事。
貴方を私の元で一生飼い慣らしたいくらい。
いつも、閉じている瞼をこじり開けて、私だけを映す眼球にしたい。
貴方の全てを私の物にしたい…………
否、してやるわ……絶対にしてやるんだから。
逃がさないわよ……モナー………………」
- 136 :名無しさん :08/11/25 15:47:54 ID:0J9xerw5
- 射手座、決して外れぬ魔弓の主の名を持つ異形は、病んだ創造主の狂った言葉に嘆息する。
嗚呼、AA、すなわちヒトとはココまで壊れる事の出来るモノなのかと。
それならば、この異形―――僕のような射手座や、密偵の方が余程常識的ではないかと。
かの、世界を覆う『不可視の死壁』を作り出した、ヒト。
かの、異形を除く全ての心を凍らせる戦争を勃発させた、ヒト。
そして、この身、異形を作り出したのもまた、ヒト。
主は従者に劣る。それは如何なる宇、如何なる宙においても同じことだ。
それに幾ばくかの寂寥を感じたとして、それを誰が責められようか。
嗚呼。嗚呼。嗚呼。
不条理な世の中よ、私は貴様が大嫌いだ。私に、親を忌む事を強要するこの世界は憎んで余りある。
無意味な運命よ、私は貴様が大嫌いだ。どうせ無視される運命にある運命は、最初から存在しないほうが尚良いのだから。
無慈悲な真実よ、私は貴様が大嫌いだ。しかし真実は無慈悲である。どんなに嫌ったとしても、それは決して変わりはすまい。変わるとしたら、それは世界が壊れると言うことだ。
不可能な夢よ、私は貴様が大嫌いだ。どうせ実現できぬと言うのならば、何故ヒトは異形を作り出したのだ。異形は、決してヒトに従属し得ぬと分かっていて、何故。
こんな、絶対の平等という不可能な夢を追求させるのか。
「全く、アナタは罪な御方ですよ。『レイズ』様」
かの『魔剣』を、バルムンクを作り出したことも含めて、ね。
- 137 :名無しさん :08/11/25 19:27:29 ID:e6L52UT1
- 場所は【塔】に戻る。
真っ暗闇の中、カタカタと茶色い毛に覆われた手高速でキーボードを打つ。
フサは舌を巻き、隣で手持ち無沙汰でいるツーに機械を通じて話しかける。
「『……ツー、あともう少しだから』」
「意外とかかってるな」
「『流石は【塔】ってところだな。裏口は手薄だったのに、システムに潜り込むのには厳重なセキュリティを一々突破しなきゃならない』」
「厳重ならば厳重な程、莫大な情報を所有してる可能性が高いって事だろ? 今回は期待できそうじゃねぇか」
「『…………………』」
「【あの女】が【レイズか、否か】………。
白黒ハッキリさせようぜ」
- 138 :さらら :08/11/25 19:53:11 ID:i96tZlNb
- 一方、苦しみから解放されたギコは、平気だと豪語するも、自室で寝るようにとしぃとモララー言われ、結局、ベッドに寝ることになったのだ。
(あいつ等。一体なんだったんだろうな……)
いきなり現れた女の方もそうなのだが、それよりもその後に表れた少年のほうが気になる。
尋常じゃなかった。特に何も考えていないような表情をしていたが、内に秘めた殺気は、弱い生命なら近づいただけで死ぬかもしれない。
少年は名をサジタリウスと言った。
どういう経緯があってその名を名乗っているのかは解らないが、もしかしたら、それは彼なりの悲劇があって、その名を名乗っているのかもしれない。
そして、そのサジタリウスが言っていた、異の存在。モナーの言っていたレイズ。そして、自分の脳裏に移った女の像。解らない事だらけだ。
「俺……あいつの事も、今起こってることも、全然解ってねぇ……」
それなのに、休んでなんかいられない。あんなことが起こったのに、休んでなんかられない。
ギコはとりあえず上半身だけを起こす。それと同時にガチャリと部屋のドアが開く音が聞こえた。
首を動かしてそこを見てみると、そこには、モナーとしぃが立っていた。
- 139 :さらら :08/11/25 21:16:02 ID:i96tZlNb
- 138のいろんなミスを修正(ゴメンなさい)
一方、苦しみから解放されたギコは、平気だと豪語するも、休んでいるようにとしぃとモララー言われ、結局、適当に休めそうなところで寝ることにしたのだ。
(あいつ等。一体なんだったんだろうな……)
いきなり現れた女の方もそうなのだが、それよりもその後に表れた少年のほうが気になる。
尋常じゃなかった。特に何も考えていないような表情をしていたが、内に秘めた殺気は、弱い生命なら近づいただけで死ぬかもしれない。
少年は名をサジタリウスと言った。
どういう経緯があってその名を名乗っているのかは解らないが、もしかしたら、それは彼なりの悲劇があって、その名を名乗っているのかもしれない。
そして、そのサジタリウスが言っていた、異の存在。モナーの言っていたレイズ。そして、自分の脳裏に移った女の像。解らない事だらけだ。
「俺……あいつの事も、今起こってることも、全然解ってねぇ……」
それなのに、休んでなんかいられない。あんなことが起こったのに、休んでなんかられない。
ギコはとりあえず上半身だけを起こす。それと同時にタンッ。 と軽い足音が聞こえた。
首を動かしてそこを見てみると、そこには、モナーとしぃが立っていた
- 140 :名無しさん :08/11/25 22:14:27 ID:e6L52UT1
- 「…………………」
この場面、さっきまで気絶していた姫に対して、『お前、大丈夫かよ』類の言葉を投げ掛ける場面だが、俺はあえて何も言わない。
その訳をシィナは重々と承知しているようだった。
『保障はしない』、俺が言った言葉を深く噛み締めている。
「……モララーは」
「この近辺に誰もいないか、周っている。何、すぐに戻ってくるだろう」
- 141 :名無しさん :08/11/27 23:44:48 ID:RwZTV71M
- 「そうか」
- 142 :名無しさん :08/11/29 07:32:46 ID:T8C0wTW2
- 「で、質問だ」
やっぱりktkr。この下種親父が。
「レイズとは、何だ?」
- 143 :名無しさん :08/11/29 19:38:09 ID:Bqd9BBIc
- 質問が来ることは予想の範囲だったが、質問の内容は予想外だった。
「……? それは俺の台詞だろーが。勝手に盗んでんじゃねーよ」
「何故、私が、何も持ってないお前から盗まなくてはならんのだ。
まあ、このやり取りは必然といえば必然だが」
- 144 :名無しさん :08/12/03 17:19:06 ID:DVHRLVj6
- 「……はっはーん、何か知ってやがるな? それで、あまり深くはしらねえとみた」
「名答モナ。で、レイズとは?」
その問いが再度発せられ、ギコは数秒押し黙る。
「レイズとは?」
またも発せられる問いに、ギコはすっくと立ち上がり、つかつかとシィナに歩み寄る。
シィナの、タイトな漆黒のロングスカート。
それの裾をつかみ、音を立てて引き裂く。シィナの悲鳴と、引き裂かれる布の甲高い音が和する。
モナーは、じっと黙ってその様子を見つめていた。見つめる瞳には、シィナに対する心配の念は存在せず、ただ結果を見守る気配だけがある。
下着が見えないギリギリの位置で、布の切れ目は止まる。さながら、先刻二つになった密偵の体のような状態になった、シィナのスカート。
その合間、『少女』ではなく、『女性』の区分に入る程に成熟した、真っ白で程よい肉付きの左太腿が覗く。
太腿に刻まれるは、深紅の刺青。王家の係累に属することが許された者のみが刻印を許される、王族の証。それを、【不死鳥】と人は呼ぶ。
「……で?」
「こいつがレイズ。不死鳥=レイズってこった」
- 145 :名無しさん :08/12/03 23:57:10 ID:Zpyg82z3
- 「レイズ……不死鳥……」
モナーは腕を組み、顎に手を添え、考え込む。
- 146 :名無しさん :08/12/05 22:18:43 ID:on0kIBQ2
- それも束の間、おもむろにモナーはアフォ姫に向き直ると、頭の位置を低くし、目を伏せ、
「姫はレイズについて何かご存じでしょうか?」
尋ねた。
- 147 :名無しさん :08/12/06 11:11:08 ID:RegeHe1I
- 「何って……歴史家が言ってることくらいしか知らないわよ」
- 148 :名無しさん :08/12/06 12:26:16 ID:r0c7hrMy
- 「本当に、ですか?」
- 149 :名無しさん :08/12/07 12:13:01 ID:4m7ylEiu
- 「あら、嘘をつく必要があるかしら? ……それとも、私が嘘をついているとでも思う?」
左足を隠すように、シィナが立ち位置を変える。と同時に、どこかおどけた言葉を吐いた。
「無い。それは絶対にありえねえ。お前に嘘をつけるだけの頭があるわけ無いだろう」
対して、たいした罪悪感も抱いていないギコの憎まれ口。
お約束のコントが数分繰り広げられ、モナーはやれやれと首を振る。
「まあいいでしょう。史実だけでも結構です。殿下、是非とも」
と言いつつ、忠誠を誓う騎士のように地面に手をつくモナー。
「……仕方ないわね。あの馬鹿げた大戦争を起こす引き金になった女、でしょう?
二国の王を誑かし、取り合いをさせることで戦争に発展させたって言う話。ラスプーチンみたいな人ね。
引っかかった王も馬鹿だけど、引っ掛けたレイズはまさに悪女そのものって聞いたけど?」
- 150 :名無しさん :08/12/07 20:37:28 ID:zMfgmIgr
- (ん……んん?)
ギコはその悪評に違和感を抱く。
- 151 :さらら :08/12/07 22:24:53 ID:jB1SqkNs
- 「ま、待て、待ってくれ。おかしいぞ?
俺が聞いたのは、レイズってのはジャンヌダルクよろしく、戦争を止めるためるなら自分の命すら問わない聖女のような女って話だぞ!?
話が矛盾するどころか、まったくの逆じゃないか!」
ギコの反応にシィナはしかし、驚きもしないで静かに首を横に振る。
「たしかに見方によってはそうも言えるし、表向きはそう言われているの」
だけどね、とシィナは続ける。
「実際は、彼女は自分が戦争を起こしたのを後悔し、自分で止めようと努力したけど、それは戦争を激化させるという行動に繋がってしまった。
結局、彼女が悪女と呼ばれる理由は、十二分にあるのよ」
「…………」
ギコは、彼女の話の後半はもう耳に入れてはいなかった。
理由は、彼女が、シィナが戦争について語る姿など見たくはなったし、彼女自身、相当辛そうな顔をしていたから、今の彼女の全てを拒絶したからだった。
- 152 :Longinus ◆K6rAsqUXw6 :08/12/08 11:43:35 ID:qLGXID4J
- 「まあ、自覚があれどなかれど、どんな女性にも悪女の素養があるということさ。
ジャンヌ・ダルクにしたって、イギリス側から見れば、勝ってた戦争をひっくり返した大敵、という意味で悪女だろうしね。
本質的な意味でもそうかもしれない。なにせ、貴族を誑かして王の元に連れて行かせたという話だからね。
自分の目的のためには何がどうなってもかまわない。ただし、それが公のためであって自分自身のためじゃなかったから聖女と呼ばれた、ってだけの話さ。ベクトルの問題なんだよ、要するに」
と、意味深なことを言うモナー。
対するギコは、
「ンなのはどーでもいいんだよ」
と話を打ち切る。
「で? これで満足かい親父殿?」
- 153 :名無しさん :08/12/08 23:13:49 ID:ygskUcw4
-
「満足、ではないな」
- 154 :ユー:08/12/09 00:45:19 ID:JMO3bxyz
- 「謎が多いわね。
ちょっと眠くなっちゃったから寝かせて」
シィナは軽くあくびをし、ゆっくりと仰向けに倒れて目を閉じる。
こんな所で寝るなと言いたかったが、そこはスルーをした。また、コントのようなやりとりをするのが面倒だからだ。
- 155 :名無しさん :08/12/09 19:30:43 ID:Ql37aKAG
- 【塔】の付近を巡回するモララー。
先刻の神射手の去った方向を監視するも、既に日は沈んでいる。
「まいったなあ……。そろそろ薬も切れて来たし、他に来るなら早く来て欲しいんだけどね」
空は曇り。夜の空は一面雲に覆われ、月明かりも星明かりもない。
【塔】は市街から離れているし――国境沿いで元戦場なのだから、それは当り前なのだが――電飾の明かりも皆無である。
「……ほととぎす 自由自在に聞く里はって奴かね。まあ、風雅でも何でもない殺風景な景色だけど」
そう言いつつ、懐よりジャマダハル……ブンディ・ダガーとも呼ばれる、主に北インドにて使用されていた武具で、ギコのククリナイフ同様、今は廃れてしまった武器の一種だ。
握りは刀身とは垂直に、鍔と平行になっており、手に持つと拳の先に刀身が来る様な造りになっている。
従って、拳で殴りつけるように腕を真っ直ぐ突き出せば、それだけで相手を刺すことが出来る。
力を入れやすく、また鎧の貫通も簡易な形状として、ペシュカドとともに戦場の主役となった武器である。
抜いたとはいえ、それを構えようとする気配はない。握力測定器を握るように握りを握っただけだ。
「―――人混みがないだけ、こっちの方が好みかな。僕にとっては」
そう、ひとりごちた。
- 156 :さらら :08/12/09 21:24:13 ID:Hix+2Rm1
- 同時刻。サジタリウスは上司のレモナにエスピオンに預けた後、その場を後にし、ある目的地に向かっていた。
(アイツにはあまり会いたくないんだけどね……)
前面が特殊な造りで出来た長い廊下の先にはいくつもの扉がある。それら全てがスライド式の二枚扉となっていて、サジタリウスは一番手前の扉を開け、中へと入る。
「はぁ……」
中に入って刹那の速さで心の底からため息を突く。原因は自分の視界に写る、自分と同じ亜人型のAAの女。年は、見たところ18前後といったところだろうか。
そいつはクイーンサイズのベッドに横たわっていて、焼き菓子を貪りながら、何かの雑誌を読んでいる。おそらくファッション雑誌だろう。
自身より長い金髪をもはや掛け布団の扱いで自身を覆わせ、身に着けている服はしわだらけ。洗濯しているのかがメチャクチャ気になる。
というか、自分の周りにはこんな女しかいないのは何故だろう。
「人の、しかもレディの部屋に許可なく入ってきていきなりため息なんて、どういうことよ?」
目も向けないでこちらそう言ってくる。サジタリウスは即効でそれを無視しようと心の中で決める。
「『ヴェガ』。今僕は君を10発前後殴りたいところだけど、ここは我慢して……任務だよ」
サジタリウスの言葉に、女、『ヴェガ』が体を起こす。その顔に、緊張感はない。
「なに?あなたの性欲に関することだったら私は大大歓g」
「撃つよ?」
「嘘よ、嘘。嘘だからそのどこから出したのか解らない大経口の拳銃をしまいなさい」
ちっ……!と、心の中で舌打ちすると、彼女の言うとおり、銃をしまう。あと3秒で撃つつもりだったのに。
「それで、レイズを叩くの?それでもいいけど、私の戦闘力はあなたよりは下よ?」
「安心して。目的はそっちではなく、監視だよ」
- 157 :名無しさん :08/12/09 22:22:18 ID:lgfZWQP6
- 「監視?」
一回瞬きし、準備運動がてらに彼女は軽く体を動かし始めた。
こきりと気味の良い音が鳴る。
- 158 :名無しさん :08/12/10 12:34:17 ID:BRYEtjSo
- 「はー、それなら魔剣(バルムンク)の奴のほうが上等じゃない?」
バリバリと音を立て、乱杭歯で煎餅を食べる織姫(ヴェガ)。まったくもって合致しない中身と名前だな、と嘆息してしまう。
「僕はあいつと会いたくない。目の前にして理性を保てる自信がないからね。それに、今は夜だけどもう少しで闇が明ける。
バルムンクは朝には行動できないだろう?」
「はー……それで私ね。で、あんたは? 悪女様を叩く?」
そう言って、袋の中の煎餅を殴る。粉々になった煎餅をレイズに見立てているのか。食べ物は大切にしましょう。
「まさか。まだ計画に必要なピースはそろっていないんだよ? 静観するだけさ。レモナにも話は通してある。あとは密偵(エスピオン)の復旧状況と、王女と護衛の状況次第だ。
まったく、不死鳥を刻んでおくとは思いもしなかったよ。あの王女、馬鹿だ馬鹿だと思っていたけどなかなかいい中身してるじゃないか」
「はいはい、神射手(サジタリウス)の名前を持つだけあって機を読むのに長けてますねー。
ったく、化身も出来ないくせに」
「素の戦闘力が上等だってだけさ。大体、命を削ってまで瞬間最大風速を上げるなんてのは趣味じゃない」
皮肉っぽく、口の端を釣り上げながらいう。
「皮肉?」
案の定反応してきた織姫に、
「悪口」
即答で返す。
「上等じゃん」
- 159 :さらら :08/12/13 13:54:49 ID:H8AfRwnq
- その返事に、サジタリウスはフッ、と笑った。
「ま、やるからには、しくじらないで生きて帰っきてよね。『僕ら』は5人しかいないんだから」
「しくじる=死。っていう概念はいかがなものかと思うわよ?」
「しくじる気?」
彼の挑発に、織姫はムッと、眉間に皺を寄せた。
「あぁもう、なんなのよアンタは!いきなり入ってきて、仕事押し付けた上にあたしに喧嘩売ってんの!?」
ギャアギャアと騒ぎながら物を投げまくる織姫。 サジタリウスは軽々とそれらを避け、一瞬で彼女に肉薄し、彼女の腕を掴んだ。
「怒らないで。大丈夫、僕は君がちゃんと仕事をしてくれるって信じてる」
「っ!?」
怒っていた彼女の顔が驚きのものへと変わる。
それは、一瞬で距離をつめられて不意つかれたからなのか、彼の顔との距離がほんの数センチになったからなのかは、彼には解からない。すると、織姫は顔を真っ赤にして
「あぁ、もう!解ったから出ていきなさい!」
ドン!と、サジタリウスを突き飛ばした。
彼は、やれやれと思いながら、この部屋を後にする。顔を真っ赤にするほど怒らせて閉まったからには、長居する訳にはいかない。
扉が背後で閉まるのを確認すると、彼は全面が特殊な造りで出来た廊下に並ぶ、ここ以外の扉を見る。
(今は時期じゃないけど、その時はすぐにやってくる。『ヴェガ』、『バルムンク』、『アトラス』、僕。そして、エスピオン。いや、『ラジエル』。僕らで、全てを終わらせ、始めだすんだ)
彼は誓う。 それは、創造者のためなのか、自身のためなのか、それとも、他の何かのためなのか。 それは彼にしかわからない。
- 160 :名無しさん :08/12/14 19:43:17 ID:IkG9mg27
- 神射手が退出したのを見取り、織姫は立ち上がった。
毛布代わりにしていた髪の毛が、クイーンサイズのベッドから落ちる。その情景は、朝日を浴びるナイアガラのようだ。
ファッション雑誌を無造作に投げ、パチンと指を鳴らす。
それと連動したかのように、雑誌に火が付き、燃え上がり、そして雑誌は灰となって床に積もる。
織姫は一度伸びをして、眠そうで気だるげな声を上げる。その、大人びた体型と体に似合わぬ無邪気な仕草と声には、男ならば簡単に魅了されるだろう。
「はぁーあ、お仕事お仕事、っと。んー、しかし神射手の奴が気にかけるほどの奴ってどんなもんなんだろね」
そう独語し、しわのよった服を脱ぎ捨てる。
傷一つない、純白の肌。血と肉と皮で構成されたにもかかわらず、猫のように奔放にしてしなやかで、百合のようにたおやかな、乙女の柔肌が外気に晒された。
「秘密の領域(ラジエル)を壊した、ねえ。悪い冗談じゃないのかしら。……魔剣(バルムンク)やら神射手なら別としても、あれは私やアトラスでも及ばない怪物だと言うのに」
しかし、その体に起きた変化は、乙女の美しい体の面影を存分に叩き壊した。
変化は下半身から始まった。
液体が沸騰するのと似た音を立てて、腰から足の指先にかけて激しく泡立つ。
- 161 :名無しさん :08/12/14 19:44:17 ID:IkG9mg27
- 織姫の顔が苦痛に歪む。乱杭歯が、激しく食いしばられる。
やがて泡立ちが止んだ時、その右足は無くなり、変わりに一本の、人魚のそれのように、太くて大きい尾のようなものが飛び出した。
『それ』には、針のようで棘のような、鋭い純白の突起が一列に並び、全体は漆黒の鱗で覆われる。
次いで、両腕も泡立ち、無くなる。かわりに何かが出でることは無く、ただ単に腕は消えうせた。
一本の尾で器用に体重を支える織姫が、腹痛に耐えるようにして体を二つに折る。
背が泡立ち、二枚の翼が背から飛び出した。蝙蝠のような、骨と飛膜で構成された翼である。
そして、変成の最終段階。
織姫の金色の頭髪が黒く染まり、一本一本が腕の太さまで膨張する。
髪の毛の形を失った蛋白質の塊は織姫の本体に巻き付き、一体化する。
髪の毛と一体化した織姫の体は、あろうことか、長く長く伸びた。
すでにして体は窓から飛び出してしまっている。翼によって窓はVの字に壊れてしまっていた。
織姫の顔も、既に人間のそれではない。顔はトカゲのような形になり、目は釣りあがり、口は裂け、二股に分かれたちろちろと舌が覗いている。
その姿を例えて言うならば、ワーム。
古英語叙事詩ベーオウルフにて、ドラゴンと同じく、騎士によって倒される運命にある怪物の名である。
「秘密の領域(ラジエル)ほどじゃないけど……。私も、十分化物だわね」
人の形を捨てた異形は、窓から飛び出しながら、そう独語した。
世界を喰らう終端の王にして、継ぎ接ぎされた偉大な可能性の一角たる織姫(ヴェガ)は、朝焼けの空を飛びながら、そう独語した。
- 162 :さらら :08/12/16 13:34:14 ID:7FUCXokz
- モナーは全員が眠りに着いたのを確認すると、エスピオンの死体があったところに向かった。
血のあとが残った、つまり、まさにエスピオンの死体があった場所で膝をつくと、その血を指でなぞる。
時間が経ったせいで、既にほとんど乾いているが、一部は違った。
「乾いていないどころか、何だこれは?」
彼の指についた血は、彼の言うとおり、まったく乾いていない。それどころか、変に水々しいのだ。
鉄臭くて、不快感すら感じるほど赤いのに、感触は、まるで森の中で僅かに湧く、聖水のように、サラサラしていて、肌触りが良い。
そこで彼は、一つの可能性に気付く。
「まさか、『ぽろろの血』か!?」
ぽろろ。それは、今は存在しないAAの種族の名だった。
彼らは、最も愛らしく、美しい種族と言う。しかし、それは表のみの顔。
裏の顔は、まさしく化けもの。しかもそれは性格がではない。まさに姿そのものが化け物だと言うのだ。
ぽろろの一族は肉体変態(メタモルフォーゼ)という特殊能力を持ち、変態後は、凄まじい戦闘能力を持つと言う。
しかし、その力のせいで、彼らは宗教的に粛清され、今は残っているぽろろ系のAAは両手で数えられる程度らしい。
「それにしても、何故あの者の体に、こんなものが含まれている?」
辺りにこびり付いている血は、全てが全てぽろろの血というわけでなかった。
水と油のように、決して交じり合うことなく、湯から壁にこびり付いていた。
「まさか、あの実験……。姉様の、あの実験か!?」
- 163 :名無しさん :08/12/16 17:06:41 ID:OLHSp6kp
- 「……父さん」
背後より聞き慣れた声が聞こえ、振り向けばそこにはモララーが立っていた。
窓から見える夜の背景をバックにし、黄色の肌が月に溶け込んでいるように見えた。
まるで幻想のようだと心の奥で思うと、彼の方に向く。
「モララーか」
「はい。ここに来る途中、二人の所に向かったのですが……ご存じの通り、ギコも姫も眠っていたので……」
「様子はどうだった」
「今のところ、一つを除いて、特には。あのバイクに乗っていた二人の動向は掴めませんでした」
「……あの二人に関しては、今は良い。不審な動きを察知しない限り、手は出すな」
二人とは、この【塔】に来る途中に見掛けた、空中を走るバイクに乗っていた二人の事だ。
いささか気になる点はあるが、今は保留にしても良いだろう。
「お前も今日一日ご苦労だった。休める時に休め」
「そうさせていただきます。ですが、その前に」
「……『姉様』とは何の事ですか?」
- 164 :名無しさん :08/12/16 17:39:57 ID:AfDq2dQj
- モナーは自らの顎に手をやり、ゆっくりと撫ぜながら独語する。
「サジタリウス……射手座、神射手か。成程成程、そういうことか」
懐から細葉巻(シガリロ)を取り出し、普通にライターで火をつける。
数十分、燃え尽きるまでシガリロを咥え続ける。煙に隠れた顔は、天敵と敵対した者のように、盛大に険悪な顔になっていた。
「姉様……貴方は、まだあんな夢を見つづけていると言うのか。世界の守護者になるなどと、レイズを継いで完全な平等を目指すなど。
悪い冗談だ。そうでないならば幻想だ。どちらにしろ、レイズになった時点で貴女は終わってしまうと言うのに」
新たなシガリロに火を付け、モナーは語る。
「私達はそう有るべくして生まれ、有るべくして生き、有るべくして逝くはずだ。そうあるように出来ているはずなのだ。
高望みは出来ないだろう。それは私達に課せられた命題に反している。
そこまでして、世界に殺されたいのか。否、殺されてしまうとしても成し遂げたいのか」
モナーの脳裏に、『姉様』の姿が浮かび上がる。
―――こんな戦争はもう起こしちゃならないのよ。
「違うな。我等は戦争を起こし、人を間引くために生まれただろう。
ふん、異形の遺伝子にぽろろの血を混ぜ込むか。それならば十分、確かな抑止力になりうるだろう」
まだ半分以上残っている二本目のシガリロを投げ捨てる。一瞬目をやり、すぐにそらす。
「下らぬ。幻想にしても下らなすぎる。
だったら、私は―――」
くるりと身を翻し、休息所へと戻るモナー。
漆黒のコートがばさりと翻り、風を孕んで大きく膨れ上がった。
「―――貴女の幻想を、叩き壊すまで」
- 165 :名無しさん :08/12/16 20:05:41 ID:AfDq2dQj
- >>164はヌルー頼む。
「……お前の知っているレイズに関しての情報と交換だな」
「レイズ、ですか。両国の戦争の引き金を『引いてしまった』、不運と言って差し支えない女性だと聞いています。
戦争において指揮を執り、かのオルレアンの聖女のように、卑劣極まりない手段で破竹の快進撃をした女性と聞いています」
「やはり、お前も知らんか……」
「姉様、とは?」
懐から細葉巻(シガリロ)を取り出し、普通にライターで火をつける。
数十分、燃え尽きるまでシガリロを咥え続ける。煙に隠れた顔は、天敵と敵対した者のように、盛大に険悪な顔になっていた。
「……私と同じ宿命を持つ女性の事だ。世界の調律者。
私達はそう有るべくして生まれ、そう有るべくして生き、そう有るべくして逝く。そうあるように出来ている生き物だ」
モララーは、モナーの奇怪極まる発言に押し黙る。
両者の間に流れる、重苦しい空気。それを打破するために発せられるモララーの言葉は、
「まるで、人間では無いとでも云うような……」
余計な、重苦しい沈黙を招いた。
「……人間ではない、か。言いえて妙とはこの事かな。そうだな、私たちは確かに人間にあらざるモノだ。起源という点で言うならば、あのサジタリウスとか云う小僧と似たようなものさ。
人外。そうあるべくしてあり、そうあるべくして逝く」
- 166 :名無しさん :08/12/18 14:51:43 ID:0v/zUQKP
- モララーにとって、その言葉は奇異なるモノとしか捉えることは出来ない。
しかし、外見には特に何の変化もない。普段通りの、飄々とした雰囲気で煙草を吸っている。
「信じられないか? モララー」
「……信じるか信じないかで言えば、答えはYESです。どんな突拍子なものでも、父さんは絶対に嘘は吐かない」
モナーの穏やかな顔に、軽薄な笑みが浮かぶ。
「絶対に、か。成程、確かにそうだ」
「何故、私に言うのです? 私は人が減ろうがどうなろうが知ったことではありませんし、むしろ歓迎すべき事態だと思っていますから、反感は覚えません。
ただ、ギコは―――」
「ギコには言うなよ。まあ、言おうが言うまいが、終焉は始まった。ギコ程度の力では、俺を止める事は出来ん。……筈だ。俺のように、世界に力を与えられたなら話は別だがな。
サジタリウスとやらの目当ては一つだろう。―――レイズ。俺と同じく、世界の調律者にして人類の殺戮者たる『黒のレイズ』を壊すための戦争が始まる。
俺の役目は『黒のレイズ』を守り、人類を終焉させること。そして、『白のレイズ』を叩き壊すことでもある」
突拍子もない話。何故自分にそんなことを話すのか、という疑問が、モララーに深く濃く大きい疑問を抱かせる。
しかし、それを口にすることはしない。―――否、出来ない。父には逆らえぬ。絶対に逆らうことは出来ぬように出来てしまっている。
だから、今、彼が口に上せる言葉は一つだけ。
「分かりました。何があろうと、私は父さんについていきます」
モララーの言葉を聞いて、モナーの顔が、表情が緩む。
嬉しそうに、それでこそ俺の息子だ、とのたまう。
普段ならば小躍りして喜ぶはずなのに―――
何故だか、今だけは、体は嘔吐になるほどの不快感に支配されていた。
- 167 :名無しさん :08/12/18 19:02:48 ID:PJjHwHoL
- ………本当に、これで良いのか?
「浮かぬ顔をしておるな、ギコ・ハニャーン。そなたの『夢』で、妾と茶を飲むはよろしくなかったか……?」
「さあ、どうなんだろうな……自分でもよくわかんねぇよ。
ただ、お前をレイズと認めていいのか否か、それで悩んでいる。
どうも、何処かで食い違ってる気がしてならねぇんだ」
- 168 :名無しさん :08/12/18 21:11:24 ID:0v/zUQKP
- 「それはつまり、妾がそなたらの言う聖女であるか悪女であるか、と言う話かな?」
……何故分かるのか。
まさか、心が読めるのか?
「予測と理解に長けておるだけのこと。心など読めぬ」
読心術って奴ね。糞親父がよく使ってやがる。
「なに、歴史とは為政者に都合の良いことが都合の良いように書かれた欺瞞の塊に過ぎん。
そこから細かな真実を読み取ろうと言うのが無理な話ではないかな?」
……そういや、オルレアンの聖女も、イギリス国教会―――アングリカン・チャーチの連中によって魔女扱いされてたんだっけか。
そういう意味では、こいつの言うことも正しい。成る程、世界に冠たる帝国だったイギリスだから、か。
「戯言よ。歴史など、意味を成さぬもの。妾、レイズが聖女なり悪女なりと違う言葉で語られることからも、それは明らかである」
……なんつーか、違和感だな。
馬鹿王女の体と顔でこうも含蓄のある言葉を吐かれると、前後不覚に陥りそうだ。
「どっちなんだよ? 実際のところ。戦争を収める側だったのか、発生させる側だったのか」
「……収める側であった。妾、白のレイズは、戦争を収め、人に安寧と秩序をもたらす為に力を与えられたのじゃからの」
世界から力を。
抑止力って奴か。この世界では、一つの要素があるならばそれに反する要素も併せ持つ。
例えるなら、引力に対する斥力、熱と冷気。ベクトルの違いってだけで、基本的には同じモノなんだが。
あン? 抑止力として力を得たってことは……
「そう、妾に反する存在、調律者にして人の世の破壊者たる『黒のレイズ』も存在する」
- 169 :名無しさん :08/12/18 21:12:02 ID:0v/zUQKP
- こんがらかって来た。
つまり、まず人間がいて、それを滅ぼす為の『黒のレイズ』とやらがあって、それの抑止力として『白のレイズ』が……。
いや、逆か。最初に白、次に黒か。プラスが無きゃマイナスは無い。これは数学じゃなくて、算数だ。
「……さっきの連中、密偵と……サジタリウス? あいつらはお前を滅ぼそうとしてきたって訳か?」
「逆である。彼らは、確実に妾を守るために、そなたらを殺して自らの手元に妾を置こうとしたのだ」
……黒のレイズ、異形連中、白のレイズで三つ巴、か。
俺、モナー、モララーの三人が白側で、異形は分からなくて、黒のレイズ側はよけいわかんねえ、ってか。
分が悪いな。
「止めるか? 妾の護衛を。妾を守ればそなたとそなたの大切なもの達は、死ぬぞ?」
「馬鹿言うな。俺は仕事は完遂するって決めてんだ。でなきゃ生きていけやしねえんだからな。
俺の護衛対象はあの馬鹿王女、その外見からすりゃお前はあいつに寄生してんだろ? だったら、俺がお前を守る。
死んでも……いや、流石に死にそうになったら逃げるが、とりあえず俺はお前の守護者だと思って差し支えない」
我ながら、クサ過ぎて死にたくなってくる台詞ではあるが。
それでも、これは本意だから―――
「……馬鹿な男」
馬鹿王女の外見が、知的で、本気で嬉しそうな笑みを浮かべたのを見て、
―――見とれずには居られなかったとして、誰が俺を責められようか。
- 170 :名無しさん :08/12/22 18:05:27 ID:5mdProLt
- 「起きろ、ギコ」
- 171 :名無しさん :09/02/26 01:01:30 ID:3IhpJmOt
- 紅茶の最後の一口を飲み下したところで、天より降り懸かる声。モララーか、王女か、はたまたクソ親父か……
- 172 :さらら :09/03/15 23:29:37 ID:GSI3RVEa
- 早速で悪いが、答えを言おう。モララーだった。
「一応、お前でよかったと思ってやる」
「褒めてんのかどうか良く解らないからスルーしてこちらの報告をするぞ。昨日、一つわかったことがあった」
「なんだ?」
「昨日、お前が撃退した女を覚えているか?」
「ん?あぁ」
忘れるわけが無い。自分がこの手で相手など、忘れるものか。
ギコの苦い表情を読み取ったのか、モララーはばつが悪そうな顔をしたが、話をやめることはしなかった。
「昨日、そいつの血を調べたところ、ぽろろの血が見つかったそうだ」
「ぽろろの血?」
聞き覚えの無いワードに、ギコは首をかしげる。
モララーはそんなギコを、あきれた様にではないが、なんだか残念そうにため息を吐いた。
なんだろう、無性に腹が立つ。
「まぁ、お前が知らないのは無理ないな」
「頭が悪いって言いたいのか?」
「違う。今では知るものが本当に少ないという理由だ。ぽろろって言うのは昔存在した、AAの種族の一つだ。」
- 173 :名無しさん :09/04/02 16:24:08 ID:8ul9oEZC
- 「だからどうしたってんだよ。希少価値って話なら、いまだに感情を持ってる俺たちの方が上等じゃねえか」
「ん、そうでもないんだな。知ってるかい? ぽろろっていうのは、今じゃ存在しないんだ。希少価値って話なら、モアとかサーベルタイガーとか僕たちよりも高いんだ」
「存在しないはずだから、か」
- 174 :名無しさん :09/05/11 22:27:37 ID:K44vCab1
- 「そう。その「いない」はずのぽろろの血が、あの不死身の女の身体に、多少なりとも流れている……」
成る程、合点がいった。
絶滅したはずの生き物から血が取れるはずがない。
いや、そもそも全く異なる種族の血が、ひとつの身体の中に流れているわけがない。
もし万が一にもあり得るとするならば、それは……
「ぽろろとのハーフってことか?」
「いや、ひょっとしたらもっとえげつないものかもしれない」
そう前置きして、モララーは俺にこう尋ねてきた。
「そのぽろろが、一体何故この世界からいなくなったかって言うのは、知ってる?」
「知るわけないだろ。その「ぽろろ」って種族の名前さえ今知ったんだぜ」
「あはは、そりゃそうだね」
無性に苛立ちつつ急かす俺に苦笑いしながら、モララーは再び前置きっぽい台詞を吐いた。
「今から僕が話すことが、120%の真実とは限らないよ。今のこの世界に残ってるわずかなものから、学者たちが推測した「仮説」に過ぎないんだからな」
「あー分かった分かった。前置きは良いからとっとと教えろやゴルァ」
「もう、せっかちだなあ」
やれやれとため息混じりに、モララーは説明を始めた。
「……昔、この惑星にでっかい隕石が落ちたらしい。それは大陸上のあらゆるものを焼き尽くした。当然、食べるものなんかどこにも残っていない。飢え死に寸前となったぽろろたちは、とうとう……
共喰いを、したらしいのさ」
- 175 :名無しさん :09/05/15 08:07:46 ID:qzWccnVB
- 「ふーん……当然といっちゃ当然か」
「……ビビらないんだな。まあ、ギコがギコである以上、それこそ当然なんだよね……」
「そんな顔してくれるなよ。三大タブーに関しちゃ、カニバリズムだろうがなんだろうが……お前が俺に対して罪悪感を抱くことはねぇだろうが」
- 176 :名無しさん :09/05/21 19:29:38 ID:ZJi40iNd
- 「しかしまあ、共食い、共食いね。暴食、グラトニー。七つの大罪って奴を思い出すな」
呆れたように、ギコは独語する。何かを考えながら、思考をまとめるかのように。
対してモララーは七つの大罪という言葉に反応して、
「色欲、暴食、憤怒、嫉妬、欲望、傲慢、怠惰の七つだね。それがどうかした?」
とギコに問うた。それは、先刻モナーから聞かされた、神代の伝説のような、荒唐無稽な話が頭に残っているせいだったろうか。
ギコはモララーに背を向け、呟いた。
「黒のレイズ、か……」
漆黒の【塔】の一室、風や空気すらも死ぬ【不可視の死壁】のすぐそばで、ギコの声は風に溶けて消えていった。
モララーは、驚愕を隠すのに精一杯だった。
- 177 :名無しさん :09/11/03 21:48:42 ID:ap+btVj7
- (ギコ……?)
- 178 :名無しさん :10/09/26 23:38:38 ID:d61qWvHk
- (………奴に気に入られちまった俺は何処に行き着くのか。先が、見えない)
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